翼の拳
〜Fists of Wings〜


第36話

作者 タイ米

 凄惨な光景の道場。
 そこに立っている血まみれの葉月。
「おい。あんたがこれをやったってのか!?」
 政樹が葉月に聞く。
「だとしたら?」
 政樹が葉月に近づく。
 そして、彼女の胸倉を掴む。
「一体、何の為にこんなことすんだよ!? なのはちゃんのボディガード役
ほっぽってまで!」
 胸倉を掴んでいる手がさらに強く握られる。
「別に。ただこうしておけば、彼女の『力』が見られると思って…」
 なのはは、葉月の表情を見て愕然とした。
 これが自分の知っている夏香なのか…。
「『力』? そんなモン見てどうするんだよ! それを見たいのは『暦』の
方だろうがよ!」
「そうよ。私は"疾風怒濤の葉月"。『暦』の人間よ」
「そん…な」
 なのはの夏香に対するイメージがガラガラと崩れ去る。
「やっぱ、『暦』は『暦』って事か!?」
 もう片方の手で葉月に殴りかかる政樹。
 だが、それを片手で受け止める葉月。
「あらあら。ダメよ、そんなんじゃ…」
 葉月の蹴りが政樹の顎にヒットする。
「グアッ!!」
 派手に吹き飛ぶ政樹。
 その衝撃に気絶してしまった。
「探偵さん!」
 なのはが思わず叫ぶ。
 葉月がこちらを向く。
「さて、どうする? 月影なのは…」
「そんな。あなたはこんな事する人じゃない! 第一、『暦』と今は関係ない
って…」
「ハァ? そんな事、あなたに言った?」
「え?」
 動揺するなのは。
 構える葉月。
「さて。そろそろ見せてもらおうじゃない。あなたの力を…」
 だが、なのはは怯えているだけだった。
「できない。あなたと闘うことなんか、できないよ!」
 その目には涙が溢れている。
「へぇ。これだけ身の回りの人がやられてまだ闘えないなんて、よほど臆病な
のかしら? それとも、それだけ私を信用してるの?」
「……」
 なのはは答えなかった。
「フン、いいわ。それなら見せてあげる。人間なんて、いかに信用ならない生
き物かということをね…」
 そう言い、なのはに向かってくる葉月。
「やめて…」
 だが、なのはの言う事に聞く耳を持たない葉月。
「やめてぇぇぇっっ!!」
 叫ぶなのは。
「…うるさいわね」
 つぶやく葉月。
 手刀がなのはの喉元に、迫ってきた。
「キャァッッ!」
 もうダメだと思い、覚悟を決めたその時だった。
 手刀は意外な人物を攻撃していた。
「カスミちゃん!!」
 葉月の手刀はカスミの胸を刺していた。
「グ、なっ…」
 その場にうずくまるカスミ。
「酷い。なんてことを…」
 なのはが言う。
「あら? 今のはしかるべき処罰を与えただけよ」
「処罰!?」
「そう。彼女は『暦』の人間。あなたを監視し、力のデータを採取するのが仕
事よ…」
「カ、カスミちゃんが!?」
 葉月の発言に、驚きを隠せないなのはだった。



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