翼の拳
〜Fists of Wings〜


第38話

作者 タイ米

「なるほど。これが『翼の拳』か…」
 水鏡に映っているなのはと葉月の戦いを見守る者が一人。
 その男は外見、それほど人間とは変わっていなかったが、決定的に違う所が
あった。
 背中に白く輝く翼を生やし、頭上には光の輪がついていた。
 また、その男が醸し出す雰囲気もどことなく、人間のそれとは違っていた。
「フォリン様!」
 フォリンと呼ばれた男の部下の声がした。
「入りなさい…」
 フォリンの指示と共に、部屋に入る部下。
「どうやら人間界では近々、『暦』の主催する格闘大会が開かれるようで…」
「『暦』?」
「邪悪な計画を企む組織です。野放しにしていれば、人間界はおろか、この
天界にも影響を来たしかねません」
「そうか」
 再び水鏡を見つめるフォリン。
「そういえば、この葉月とかいう女性も『暦』の一味だったな。これほどま
での邪気を漂わせてるということは、『暦』の噂もまんざら嘘ではなさそう
だな…」
 そう言い、立ち上がるフォリン。
 そのまま部屋を出て行こうとしていた。
「フォリン様、どちらへ…」
「少し人間界へ。『翼の拳』の少女の姿を実際にこの目に焼き付けたくてね」
 そして、フォリンは飛び立っていった。
 人間界へ…。

「なるほど。これが『翼の拳』の力ね」
 なのはの拳を受け止める葉月。
 その表情には余裕すら感じられた。
「だけど…」
 腕ごとなのはを持ち上げ、そのまま投げる。
 背中から直に地面に叩き付けられるなのは。
「グハッ!!」
 さらに追撃を試みる葉月。
 しかし、それは辛うじてかわされる。
 起き上がるなのは。
 すでにその息は荒かった。
「あなたの力はそんなものじゃないはずよ…」
 葉月が言う。
「早く見せなさい。炎虎をも打ち砕いたその拳を…」
 再び構える葉月。
「デヤァァァッッッ!!」
 またも葉月に立ち向かうなのは。
 しかし、その攻撃のどれもがうまく捌かれ、反撃を受ける。
 体中に傷を受け、なのはは立っているだけでやっとの状態であった。
「どうしたの? もう終わりかしら。それとも、私の見込み違いってやつ?」
 笑みを浮かべる葉月。
「まだ、終わってない!」
 襲いかかるなのは。
 またも受け止めようとする葉月。
「馬鹿の一つ覚えよ!」
 葉月が受け止めたと思った瞬間、足に激痛が走る。
 なのはのローキックだった。
「何!?」
「見くびらないで! 私は『翼の拳』だけじゃない!!」
 マフィア主催の格闘大会に備えて鍛えた攻撃が、葉月に炸裂する。
「チッ、蹴りも想像以上に重いわね…」
「まだまだぁ!!」
 なのはがボディにパンチを仕掛ける。
 ガードを試みる葉月。
 だが、そのパンチはフェイントであった。
 本命は『翼の拳』。
「それぐらいは読んでるわ!」
 葉月が『翼の拳』をガードしようとした瞬間、彼女の顔にそれがクリーンヒ
ットする。
「な!?」
「どう! 『翼の拳』は?」
 自信たっぷりに言い放つなのは。
「くっ、これほどのスピードが…」
 葉月もこれには動揺していた。
「一気にいく!!」
 なのはが畳みかけようとした瞬間、彼女に異常が起こる。
「え?」
 なのはの体がそのまま地に伏す。
「何故!?」
 なのははこの状態に納得できない状態であった。
「フフッ。久々の戦いに、これまでのダメージの蓄積。ついに体が悲鳴を起こ
したのね…」
「そんな…」
 ここまで来たのに…。
 後悔の念が、なのはに押し寄せる。
 近寄る葉月。
「安心して。殺しはしないから…」
 眼鏡が不気味な光を放つ。
 もうダメだ、となのはは思った。
 その時だった。
「そこまでよ!」
 聞き慣れた少女の声がした。
「え。この声って…」
 なのはは一瞬、耳を疑った。
「お前…」
 葉月がつぶやく。
 道場の入り口にいたのは、麻生夏香その人であった。



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