翼の拳
〜Fists of Wings〜


第39話

作者 タイ米

「お前、何故ここに!?」
「それはこっちのセリフよ…」
 なのははこの光景に困惑していた。
 道場内で言い争っている2人の夏香。
「それにしても、やってくれるわね。この私の姿だけでなく、気までそっくり
にしてくるなんて。おかげで思いっきり怪しんで、ここまで来ちゃったわ」
「あ、あの、これって…」
 なのはが今、喋っていた夏香に話し掛けた。
「おそらく、だれかが術を使って、私のそっくりさんを作ったのよ。ま、誰が
やったかは大体察しがつくけど…」
「じゅ、術!?」
 なのははこの夏香の発言に驚嘆した。
「さて、偽者さん。続きは私が引き受けるわ」
 構える夏香。
「夏香。気をつけて。そいつ、ものすごく強いわ! 師匠も倒してるし…」
「ええ。その事は私が一番よくわかってるわ…」
 なのはの忠告に軽く答える夏香。
「彼女の言うことはよ〜く聞いたほうがいいわよ。何せ、私は"疾風怒濤の葉月"
ですもの」
「そうね。確かにあなたは"疾風怒涛の葉月"ね」
 そう言い、葉月に向かってくる夏香。
「セイッ!!」
 攻撃をガードしようとする夏香。
 しかし、それは夏香のフェイントであった。
 そして、下段の甘い所にローキックが炸裂した。
 偶然にも、なのはのローキックと同じ箇所を受けた。
「グッ!」
 思わず小さく声を発する葉月。
 その後も攻撃を続ける夏香。
 面白いように攻撃が当たる。
 逆に、葉月の攻撃は全て避けられ、その度にカウンターを受ける。
「な、何故だ!」
 葉月が叫ぶ。
「何で、こんなことになるか知りたい?」
 笑みを浮かべる夏香。
「あなたが"疾風怒濤の葉月"だからよ…」
「!?」
 夏香の答えに動揺する葉月。
「あなたの思考は昔の私そのまま。だから、面白いように私はあなたの裏をか
く事ができる…」
「……」
「でも、あなたは私の思考は読めない。それはあなたが『麻生夏香』じゃない
からよ」
「何だと!?」
「今の私の思考は、『麻生夏香』としての時のものも持ってるわ! それを読
まない限り、あなたに勝ち目はないわ!!」
 夏香が言ってる間にも、彼女は攻撃を続ける。
 その度にダメージを受ける葉月。
 師匠、なのは、そして夏香。
 3人の戦いでのダメージは決して少なくなかった。
 ついに葉月にも限界が見え始める。
「こ、こんな事が…」
「決着をつけましょう!」
 構える夏香。
 葉月にはこの結末はもう見えている。

 即ち、敗北。

「フッ。もうこの辺でいいわね…」
 急に体の力を抜く葉月。
「これで終わりよ!」
 葉月との距離を詰める夏香。
 その時、夏香の肩を掴む葉月。
 そして、葉月の体が青白く光る。
「これは…自爆!?」
「これはあなたの技と違う。マスターが私に与えてくださった能力なのよ」
「そうか。道連れにする気?」
「ただではやられないわ!」
 光が夏香をも包み込み始める。
「夏香〜!!」
 叫ぶなのは。
 その時だった。
 無数の攻撃が葉月に襲いかかる。
 そして、最後は力強いナックルで吹き飛ばされる葉月。
「こ、これは!?」
「『無名・瞬殺』。今の私の技、冥土の土産に覚えておきなさい」
「ウァァァァァ〜!!」
 葉月の絶叫と共に、爆発が起こる。
 大きな邪気が、この道場から消え去った。
 一息つく夏香。
「や、やったね。夏香…」
 笑顔を浮かべるなのは。
「そうね。しかし、派手にやられたわね。結構厳しい状況かも…」
 夏香が道場内を見て、そう言った直後だった。
「いやいや。非常にいいものを見せてもらいました」
 拍手をしながら現れた男。
 金髪を腰まで伸ばし、絹のような白い素材の一枚の布を袈裟のように纏って
いた。
「あなたは?」
「誰よ、一体…」
 なのはと夏香がそれぞれ聞く。
「私はフォリンといいます。あなた達の戦いに深い感動を覚えました…」
 フォリンは落ち着いた雰囲気で答えた。



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