翼の拳
〜Fists of Wings〜
第40話
作者 タイ米
道場に突然現れた、フォリンと名乗る謎の男。
二人は一瞬動揺する。
が、すぐさま夏香が切り出す。
「あのね、フォリンさん。今、私達はあなたに構ってる暇はないの。この状況
を見ればわかるでしょう?」
かなり強い口調で言う夏香。
対して、フォリンは慌てる様子もなく、この凄惨な光景を眺め回した。
「フム。確かにこれは酷い有り様ですね。救急車を呼んでも間に合わないか…」
「そんな!?」
「ちょっと、冷静にそんな絶望的な事を言わないでくれる!」
またもや強い口調の夏香。
「失礼。それでは…」
そう言い、指を鳴らすフォリン。
一瞬、辺りがフラッシュに包まれる。
そして、また元の光景に。
見た目は普通の道場。
だが、そこには明らかな変化があった。
「あれ、飛び散ってた血がなくなってる…」
「それどころか、みんなの傷が塞がれてるわ!」
なのは、夏香もこれには驚く。
「これは、先程の戦いを見せてくれた、せめてもの礼です」
フォリンがにこやかに言う。
「礼って、一瞬のうちにこんな芸当を…。あんた、何者なの!?」
夏香が聞く。
「今はまだ明かせません…。ですが、また会うことになるでしょう。そう遠く
ないうちに…」
フォリンはそう言い、道場を去って行く。
「ちょっ…、待ちなさいよ!!」
後を追いかける夏香。
だが、そこにはもうフォリンの姿はなかった。
「ったく…」
つぶやく夏香。
その時、なのはが声を上げる。
「夏香! みんなが起き上がったわ!!」
「えっ!?」
急いで道場に戻る夏香。
そこには、今まで何事もなかったかのように立ち上がる、みんなの姿があっ
た。
師匠も、弟子達も、そして政樹も…。
そんな政樹が夏香に近づいてくる。
彼の表情は険しいものだった。
「あ…」
思わず夏香が声を発する。
その後、政樹が口を開く。
「なのはちゃんに聞いたよ。ここを襲ったのはあんたそっくりの偽者だって
な…」
「……」
「もし、これから先、彼女をボディガードとして守っていく気があるんなら、
どんな状況にも対処していかなけりゃダメだ。でないと、彼女を奴らに渡す
事になる…」
「…ん、わかってる」
夏香は下を向いたまま、応える。
次の瞬間、政樹の手が、夏香の頭にのせられる。
そして、その手でワシャワシャと夏香の髪をかき混ぜる。
「ちょっと、何するのよ!?」
「やっぱ、女の子に暗い顔は似合わねぇ。もっと笑えって。事件は解決した
んだし…」
政樹はいつもの笑顔に戻っていた。
それにつられて、夏香も笑顔を見せる。
「ハハハ。それでいいんだよ…」
「ハハハハ」
笑いながら、夏香は思った。
こうして、心の奥底から笑うのって、何年ぶりだろう、と。
だが、なのはの一言で夏香はすぐ、我に返ってしまった。
「カスミちゃん! 私の事、覚えてないの!?」
なのはの方を見る夏香。
そこには、涙ながらにカスミを見る彼女の姿があった。
「あなたは…、誰なんですか?」
カスミの言葉が、無情にもなのはの心を突き刺した。
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