翼の拳
〜Fists of Wings〜
第41話
作者 タイ米
道場の近くにある公園。
一人、涙を流すなのは。
他人と交わる事がそんなに得意でない彼女にとって、カスミは心を開く事の
できる数少ない友人であった。
短い間ではあったが、その間一緒にいろんな話をした。
辛い修業も一緒にやってきた。
そして、共に笑いあってきた。
これからも、彼女とはいい思い出をいっぱい作ろうとしたのに…。
それらがすべて水泡に帰してしまった。
この出来事を、今のなのはが受け入れるには非常に困難であった。
と、急に夏香が現れた。
「いいかしら? ちょっと話したい事があるんだけど…」
「うん…」
元気なく返事するなのは。
少しの沈黙の後、夏香がゆっくりと口を開く。
「…ショックだった?」
「……うん。正直ね。カスミちゃんが暦に操られてた、というのもそうだけど、
それ以上に、洗脳が解けて今まで私といた記憶が全部飛んじゃったのには…」
そこでまた泣き出すなのは。
夏香はそんななのはを見て、一つの問いかけをする。
「ねえ、あなた達ってそこで終わりなの?」
「え?」
この問いに驚くなのは。
「あなた達の友情って、記憶がなくなったらおしまい。そんなものなの?」
「え、それは…」
「家に私といた時、彼女の話を嬉しそうにしてたじゃない。二人の関係は詳し
くわからないけど、相当親しいんだな…というのはそれだけでもよくわかった
わ」
「……」
「でね、私一つ思う事があるの…」
「思う事?」
「人間関係って、『保つもの』じゃなくて『作るもの』だと思うの」
「作るもの?」
「まあ、私は暦を脱け出してさ、友達っていうのもいなかったから、そうせざ
るを得なかったんだけどね」
笑いながら話す夏香。
そして、こう続ける。
「もし、今までの仲が崩れちゃったんなら、また作り直せばいいじゃない。年
齢も離れてないし、いい友達になるんじゃない?」
その言葉を聞き、なのはは何かを悟ったような表情をする。
そして、涙を拭いながらこう言う。
「ありがとう、夏香。おかげで目が覚めたよ!」
いつもの元気な表情を取り戻し、公園を出るなのは。
夏香はその光景を後ろから見守っていた。
「それでは、私はこの辺で…」
カスミが帰り支度を整える。
「ウム。洗脳が解けたとはいえ、道場に来なくなるのは淋しくなるがな…」
師匠が言う。
「ええ。でも、もし私が空手を習うなら、ここで学びたいと思います。もちろ
ん洗脳抜きで」
笑顔を見せながら返すカスミ。
師匠達も笑顔になる。
そして、カスミがそのまま帰ろうと思ったその時だった。
「カスミちゃん!!」
その声の方を向くカスミ。
「あなたは…」
全力疾走したのか、肩で息をするなのは。
「私、あなたに言いたい事があって…」
すると、カスミの手を握りだした。
「!?」
驚くカスミ。
「私、月影なのは。よろしくね!」
「……」
その時、カスミが何かを思い出したような表情をする。
そして、つられるかのように口を開く。
「私、坂井カスミといいます。よろしくお願いします!」
カスミがなのはに笑顔を見せる。
そして、さらに彼女はこう続ける。
「何かこう、直感的だけど、あなたとは話が合いそうな気がするの。
もしかして、仲良くなれるかな?」
カスミのこの問いに、なのはは驚く。
そして、一呼吸置いて、なのはが答えた。
「うん。きっとなれるよ!」
その答えは自信に満ちていた。
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