翼の拳
〜Fists of Wings〜


第43話

作者 タイ米

「『暦』!?」
「間違いないわ。『暦』の幹部がこれと同じものを私に渡したもの…」
 そう言い、夏香はヘルメスに渡された招待状をなのはに見せる。
 それは紛れもなく、なのはの招待状と同一のものであった。
「本当だ…」
 つぶやくなのは。
「あのね、なのは。これがどういう事を意味しているかわかってる?
『暦』はあなたを狙うために大会を開いてるのよ。あなたが出場したら、あいつらの思う壷じゃない」
「うん。わかってる…」
「わかってるんだったら…」
「あのね、夏香。私、思う事があるの…」
「思う事!?」
 なのはの言葉に首を傾げる夏香。
「一週間前に夏香の偽者が道場を襲った時、その原因が私の『力』にあると知って愕然とした。その為だけに、何も関係ない師匠や仲間達、さらにはカスミちゃんまで…」
「なのは…」
「私が大会に出なくても、『暦』は私を狙い続ける。そうなれば私の周りにいる人全てがさらに危なくなってくる…」
「……」
 夏香はついに言葉も出なくなった。
 なのはは続ける。
「それに、このまま逃げ続けたら、いつまで経っても自分に勝てない。
いつまで経っても『はばたけない』…」
「『はばたく』?」
 夏香が聞く。
「私の夢。『翼の拳』が出せるようになった時、急にそういう意識が強くなったの。はっきりいって、まだどういう形で『はばたく』のかわからないけど、この力を信じ、磨きさえすればいつかはできると思うの……」
「なるほどね…」
 夏香がつぶやく。
「私はみんな、そして自分自身の為にも戦っていきたいの! 『暦』、そして自分に!」
 なのはが言い終わる。
 その目はあまりに真剣で、夏香から見てその覚悟が容易に感じ取られた。
 そしてしばらくして後、ようやく口を開く。
「そう。あなたがそこまで言うなら、私がこれ以上口出しする権利はないわね…」
「夏香!」
「ただし、私もボディガード役だからね。あなたが危ないと思ったら即、助けさせてもらうわよ」
「わかった」
 了承するなのは。
「それからもう一つだけ。大会出場の最終的な許可はあなたの師匠からもらいなさい。多分、あなたが招待状をもらってることは知らないはずだし、これをもらってるのは例外である私達を除いたら、一流の格闘家達だけだしね」
 夏香が付け加える。
「うん。ちゃんと言う」
 なのはが言う。
「そう。それじゃ道場に向かいましょう!」
「ええ!」
 なのはと夏香が道場に向かう。

 その光景を見つめる一人の少年。
「へぇ。彼女達、格闘大会に出るのか。そういえば、あの赤い髪の彼女には特に惹かれるものがあるなぁ。これは出てみるのもいいかもしれない…」
 そう言うと、少年はそのままどこかへ消え去っていった。


 

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