翼の拳
〜Fists of Wings〜


第44話

作者 タイ米

 武聖流空手道場。

 中でなのはは正座をして待っていた。
 しばらくして、奥から師匠が現れる。
「すまんな。待たせてしまって…」
 なのはに向き合うかたちで正座をする師匠。
「いえ…」
 なのはは静かに言う。
「それで、私に話というのは?」
 師匠が聞く。
「師匠、『S−1グランプリ』というのをご存知でしょうか?」
「『S−1』? 確か今度行われるという世界規模の格闘大会の事か?」
「はい…」
 そこでなのはは自分に届いた招待状を師匠に見せる。
「!? どういう事だ?」
 師匠が驚く。
 無理もない。普通なら一流の格闘家に届いてるはずの招待状がよりにもよって実績皆無、知名度皆無の少女に届いていたのだから…。
「今日、ポストを見たら届いていたのです。最初は間違いかと思いましたが宛名も合っていました」
「それで…、出るのか?」
 師匠が問う。
 真剣な目つきをしながらなのはが答える。
「そのつもりです…」
 しばらく沈黙が流れる。
 その沈黙を破ったのは師匠であった。
「いいか。この大会はいわゆる世界大会だ。その招待状がお前に届いている。怪しいとは思わんか?」
「承知しています」
 なのはが即答する。
「それがわかった上で出場するのか? そうさせる理由は何だ? 単なる力試しとは思えんが…」
 なのはは黙ったままだった。
 ただ、その表情は今まで彼女が見せた事のないものだった。
 師匠にもその気迫がひしひしと伝わってくる。
「言いたくない…か。ならそれでもよし」
 この師匠の意外な言葉になのはが少し驚いた表情をする。
 だが、師匠はすぐ後を続けた。
「だが、私はお前を『S−1』に出すとはまだ認めておらん。この前の大会からさほど日数は空いておらんし、第一、お前に招待状が届いているという事はこの大会に必ず裏があるといってるようなもの。お前の師匠として、そんな危険な場所に出すわけにはいか…」
「師匠!!」
 なのはが思わず声を荒げる。
 それに驚く師匠。
 それから師匠は、なのはの表情を凝視した。
「全て承知の上で、それでも出たいというのか…」
 すると、師匠が急に立ち上がった。
「月影、道着は持ってきているか?」
「え?」
「私と試合だ。これから」
「!!」
 目を全開にして驚くなのは。
「お前も一人前の格闘家として歩むつもりなら、その拳で私を納得させてみせろ!!」
 師匠の厳しい表情がいつまでもなのはの眼に焼き付いていた。


 

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