翼の拳
〜Fists of Wings〜


第45話

作者 タイ米

 弟子達が道場内に入って行く。
 そこで彼らは驚くべき光景を見る。
「!?」
 そこには天地の構えをした師匠と、拳を輝かせたなのはが向き合っていた。
 二人とも、今にも戦わんばかりの雰囲気だ。
 これに弟子の一人が尋ねる。
「し、師匠! これは一体…」
「おお、お前達か。ちょうど良い。これから私と月影の戦いに立ち会ってくれんか?」
 師匠の言葉に弟子達は耳を疑った。
「師匠、何を考えてるんですか? 師匠と月影じゃ、戦わずとも勝負は見えてるようなものじゃないですか」
 師匠は弟子の言葉に聞く耳を持たない。
 代わりになのはの方を向き、言う。
「月影、私はこの戦いに全てをかけるつもりだ。だから、お前も全てをぶつけてこい…」
「…はい!!」
「ちょっ、師匠! 月影!!」
 弟子達も困惑し始める。
 この戦いを止めようと試みたが、二人の闘気に圧され、手が出せない。
「無駄よ。今の二人を止めるのは…」
 弟子達が声の方を向く。
 そこには夏香がいた。
「今、彼女は重要な岐路に立たされているのよ。格闘家としてのね…」
「格闘家と…しての?」
「あなた達もよく見ておきなさい。彼女の生き様を…」

 なのはにとって、天地の構えを実際に見るのはこれが初めてだった。
 武聖流の中で一番の奥義とされている天地乱舞を、この構えから出す事ができるというのを話で聞いただけだ。
 しかし、生で見るとその迫力は凄まじく、気を少しでも抜けば、あっという間に呑まれてしまう感じだった。
 だが、今は恐れている場合ではない。
 この試練を乗り越えなければ先はないのだ。
 ただ、全てを持って立ち向かうしかない。

 なのはは両膝に力を溜め、一気に師匠に向かって駆け出した。
「てやぁぁぁぁぁ〜っ!!」
 翼の拳が師匠を襲う。
 当たるすんでのところで師匠はこれを避け、反撃に転じる。
 回し蹴りを繰り出す師匠。
 だが、これをなのはも何とか防御する。
「だめだ! 防御をしては!!」
 弟子の一人が言う。
 しかし、時は既に遅かった。
 ガードの上から容赦なく連撃を叩き込む師匠。
 一発一発の攻撃がまともに喰らえば必殺の威力を持つぐらいの重さだ。
 止めどなく行われる攻撃に、なかなか反撃の糸口が掴めないなのは。
 そのラッシュ力たるや、日向や炎虎の比ではない。
 ついになのはのガードが解かれる。
「せいっ!!」
 師匠の繰り出す高速の正拳突き。
「うあっ!!」
 遠くまで吹き飛ばされるなのは。
 立ち上がった頃にはまたしても師匠の連撃の的に。
 全く手足が出せないなのは。

 このまま、このままやられてしまうのか?

 その時、師匠の一撃一撃に言葉が込められてるように感じた。

 お前はこのまま終わるのか?
 どんなに辛い状況だって諦めず、奇跡を起こしてきたではないか。
 自分の力に自信を持て。
 自分に負けるな!!

 自分に負けるな!!

 なのははハッとした。
 そして、師匠の正拳を当たる直前でかわすことに成功する。
(師匠、ありがとうございます。私を激励してくれて…)
 なのはの拳に翼が生える。
(私、頑張ります。これはその感謝の印です!!)

 なのはの拳が師匠の腹部を捉えた。


 

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