翼の拳
〜Fists of Wings〜


第46話

作者 タイ米

 試合が終わり、数分が経過した。
 道場内にはまだその熱気が残っていた。
 二人ともまだ息が荒く、呼吸を整えるのに時間がかかっていた。
「月影…」
 師匠が口を開く。
「はい…」
「ここまでお前がやるとはな。これも普段の鍛錬の賜物だな…」
 そう言うと、師匠が黒の帯を解きはじめる。
「師匠?」
 そして、帯をなのはの方に投げる。
 受け取るなのは。
「こ、これは…」
「その帯をやる。本番はそれを締めて出ろ、月影」
 その言葉になのはは驚いた。
 師匠の顔から小さな笑みがこぼれた。
「師匠…」
「お前は武聖流の代表だ。この黒帯がその証だ」
 師匠から授かった黒帯は"熱かった"。
 師匠の、そして仲間達の魂がこもっているように感じられた。
 今、締めている帯を解き、代わりに黒帯を締めるなのは。
 締め終わると、不思議と気合が入ってきた。
「『S−1』は私以上の猛者達がごろごろおる。だが忘れるなよ、最後まで自分の力を信じる事を…。そうすれば、壁は乗り越えられる!!」
 今の師匠の言葉は、なのはの心に響くものがあった。
 そして、手を交差させ、拳を腰の辺りで止める。
「ありがとうございます。頑張ります、師匠!!」
 こうしてなのはは試合までの残りの期間、練習にさらに励み、本番に臨むのだった。

 キックボクシングジム。
 ここでまた、練習に励む一人の少年がいた。

 日向義仲。

 以前、月影なのはとの練習試合にて敗北を喫し、それ以来彼女へのリベンジに燃えていた。
 そんな彼に、コーチである坂田がある話を持ちかける。
「日向、話がある」
「はい?」
 練習の手を止め、坂田の元に駆け出す日向。
「実はな、今度行われる『S−1グランプリ』になんとあの月影なのはが出るらしいぞ!」
「ブーッ!!」
 いきなり吹きだす日向。
「待って下さいよ、コーチ! 確か、あれは世界中から一流の格闘家達が集う大会でしょう。何であいつが出るんですか!?」
「わからん。だが、あの炎虎を破った実績もある。出てもおかしくないかもしれん…」
 その時、日向はかつて自分を打ち倒した翼の拳を思い出した。

 やはり、あれのおかげなのか?

 ならば…

 日向に熱いものがこみ上げてくる。
「コーチ、俺もその大会に参加させてください!!」
 懇願する日向。
「安心しろ。すでに参加申し込み用紙には名前を書いてある。あとはお前の同意を得て、送るだけだ」
「コーチ! ありがとうございます!!」
 頭を深々と下げる日向。
「何を言っておる。『早く月影とリベンジさせろ』とうるさかったではないか。
それに、あの拳に対抗するために会得した技もあるのだろう?」
「ああ、そうだった。わざわざ山に篭ってまで会得したからな。今度はそう簡単にやられないぜ、月影!!」
 日向の拳から、太陽のように輝く光が現れた。

 ホテルの一室で瞑想を続ける男。

 炎虎。

 月影なのはの抹殺に一度失敗し、それ以降ずっとこのままであった。
 だが時は満ちた。
 かつてない闘気が感じられる。
 彼女のものだ。

 凡人なら気のせいだと言うであろう。
 道場もここからかなり離れた位置にある。
 だが、彼は確かに感じた。
 確証はある。自分なりにではあるが…。
 目を開け、立ち上がる炎虎。
「決着をつけようではないか、小娘…、いや、月影なのはよ!!」
 テーブルには『S−1グランプリ』の招待状が置かれてあった。

 それぞれが想いを抱き、大会当日を迎える。


 

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