翼の拳
〜Fists of Wings〜


第47話

作者 タイ米&茜丸

「ここは、どこ!?」
 なのはが辺りを見回す。
 だが、周りには何もなかった。
 ひたすら空間だけがあり、なのは自身も宙に浮いていた。
 と、そこに一人の女性が現れた。
 顔はよく見えないが、美人であるということは容易に想像できた。
「あなたは?」
 なのはが尋ねる。
 女性が口を開く。何かを言っている。
 だが、女性の声が小さいのか、なのはの耳が遠いのか、よく聞こえない。
 なのはは、必死になって聴きとろうとする。
『私はウェン… あなたを… 者』
「え、何? あなたは…」
 なのはがもう一度尋ねようとした時、彼女の視界が光で遮られた。

 気付いた時は、自宅のベッドにいた。
 なのはは、再び周りを見る。
 普段と変わらない、見慣れた寝室がそこにはあった。
「夢……」
 その時、夏香の大きい声が聞こえた。
「なのは〜、もう時間よ! 早く用意しなさ〜い!!」
 なのはが時計を見る。
 予定の起床時間をかなり回っていた。
「キャ〜ッ、寝坊!! ごめんなさい、夏香!!」
 慌てて支度をするなのは。
 この後、夏香にこってり絞られたのは言うまでもない…。

 キックボクシングジム。
 会場に行く前、ここに寄った日向。
「やるだけのことはやった。後はそれを思う存分、試合で発揮するだけだ!!」
「はい!!」
 坂田の激励に応える日向。
「それじゃ、行ってきます!」
 日向がジムを後にしようとした時の事だった。
「ああ、ちょっと待ってくれ!」
 坂田が日向を呼び止める。
「何です?」
「お前に渡しておきたいものがあってな…」
 坂田はそう言い、置いていたクマのぬいぐるみを日向に渡す。
「こ、これは!? コーチ、こんな趣味があったんすか!? いやぁ、人は見かけに…」
「違うわ、馬鹿者!!」
 坂田の鉄拳が日向の頭にヒット。
「てっ! 何も本気で…」
「実はお前が来る前に、『あの子』がやってきてな。
 これをお前に渡してくれ…、と言って、去って行ったのだ」
「『あの子』?…ああ、アイツね…」
「プレゼントか?憎いじゃないか、このこの!!」

 坂田がからかう。

「ちょ、茶化さないで下さいよ。そんなんじゃありませんて!
 今の俺は、月影へのリベンジだけが全てですんで。
 もう、これだけに集中!!」

 そう言いながら、シャドウを始める日向。

「うむ、動きも良い。体調も万全のようだな!
 試合までにそれを維持して行けよ!!」
「はい!!」

 そう言い、日向と坂田は今度こそジムを後にした。
 ちなみに渡されたクマのぬいぐるみは、何気に持っていく日向だった。
 その様子を、物陰からこっそり見ていた銀髪の少女。
 彼女こそ、日向の為にクマのぬいぐるみを作ってあげた張本人である。
「ぬぅ、またしてもあの人の心は『月影なのは』一色に! やはりボクの方に振り向かせるには大会に出るしかないのかなぁ!? あ、もちろんセコンドとしてだけど…」
 一人で考えに更ける少女。
 やがて、ある一つの結論に達した。
「ああ、いつまでも考えてたってしょうがない! こうなったら、行動あるのみ!」

 そして彼女は立ち上がり、その場を後にした。


 

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