翼の拳
〜Fists of Wings〜


第48話

作者 タイ米


 トゥエルヴムーンシティ。
 都心の中の都心として、人が、社会が常に動いている街。
 そして、今回の戦いの『会場』でもある。

 そのオーロラビジョン前に続々と集まる人々。
 どうやら、今大会の出場者達のようである。
 なのは達も到着する。
「ふう、やっと着いたわね。夏香」
「あんたが寝坊さえしなけりゃ、もっと早く着いたのよ」
「もう、その事はいちいち言わないでって!」
 二人が話し合っていたその時、聞き慣れた声がした。
「よう! 月影!!」
 声の方を振り向くなのは。
「ひ、日向君!」
 日向が側に立っていた。
 いきなりの登場に驚くなのは。
「しっかし、びっくりしたぜ。お前が大会に出るなんてよぉ!」
「そんな。日向君こそ、出場するなんて思わなかったよ…」
「ああ。俺もお前が出るなんて知らなかったら、出なかったろうよ…」
「え?」
 日向が拳に力を溜め始める。
 燃え盛るような気がそこに集約する。
「お前へのリベンジの為に、死ぬ気で会得したんだ。今度はそう簡単には勝たせない、いや、俺が勝つ!!」
 なのはへのリベンジの想いが表情からも伝わる。
「じゃあな、月影。今度会うときは、『敵』としてな…」
 そう言い、日向は去って行った。
 その様子を見ていた夏香。
「彼が、あなたに負けた子?」
 なのはに尋ねる。
「うん。ジムの期待のエースで、ものすごく強いの。私も翼の拳がなかったら危なかった…」
 あの時の事を思い出すように答えるなのは。
「今回はそれがあっても危ないかもね…」
「え?」
 夏香の一言に驚くなのは。
「ああいうタイプは意外に勝ち残るものよ。あんたも以前の勝利で、いい気になってたら、あっという間に寝首をかかれるわ」
 夏香の言葉には説得力があった。
「うん、わかってる。でも、私だって以前よりは強くなってる。こっちも負けるわけにはいかない!」
 夏香はこの関係を少し羨ましく思った。

 共に刺激しあえる仲間がいる。
 それだけで、彼女はまだまだ伸びるだろう。

 自分にもいつか、そういう存在ができるだろうか?
 友として、そしてライバルとして互いに磨きあっていける仲間が…。

 今回の大会は、そんな存在を見つける為に参加しているのかもしれない。

 そんな想いを頭の中で巡らせているうちに、オーロラビジョン内にある人物の顔が出てきた。
 どうやら、今大会の主催者らしい。
 だが、夏香はこの顔を知っていた。

 サー・ダッシュウッド。

 暦の財力は、この人物で持っていると言ってもよい。
 そして、今大会の主催に関しても、多大な貢献を果たしていると思われる。
「ついに始まるのね、戦いが…」
 夏香がつぶやく。

「大会に集まりし、選手の皆さん。わざわざ遠い所からご苦労様です。これよりトゥエルヴムーン・カンパニー主催『S−1グランプリ』の開会を宣言致します」
 サー・ダッシュウッドの声。
 戦いの火蓋が静かに切って落とされた。


 

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