翼の拳
〜Fists of Wings〜


第51話

作者 タイ米


 なのはの相手、ザ・イースターの控え室。
 彼はウォームアップに余念がない。
 イースターのスタッフが駆け寄る。
「しかし、驚いたな。お前が一試合目で、しかも相手が子供だなんて…」
「子供?」
「ああ。実績はほとんどない14歳の少女だよ。噂ではあの炎虎を倒したらしいが…。だけどお前も相手が少女だと、少々やりにくくないか?」
「何が?」
 あくまでクールに聞くイースター。
「どう考えてもこの勝負は目に見えている。下手な事やりゃ、世間を敵に回しかねないだろうが…」
「それでも、俺は構わないぜ…」
 スタッフの方に顔を向けるイースター。
「俺は世間に媚びを売りに来たんじゃねえ。セメント(真剣勝負)をしに来たのさ…」

 なのはvsイースターのバトルステージ。
 大通りの交差点前で行われる。
 この為に、車の通行等は一切禁止となっている。

 なのはが到着する。
 だが、眼前にはすでにイースターが立っていた。
「来たか…」
 イースターがつぶやく。
「あなたが1回戦の相手ですね…」
 なのはも真剣な表情を見せる。

「しっかし、よくもまあ同じ人間で、これだけ違うようにできるよなぁ…」
 政樹がつぶやく。
 なのは148cmに対して、イースター230cm。
 身長だけでも1m近く違う。
 その上、イースターは体格もがっしりしており、少女の体のなのはと比べても違いは歴然。
 見た目だけなら、誰もがイースターが勝つ方に賭けてしまうだろう。
「この体格差じゃ、あの力があっても通用するかねぇ…」
「さあね。全てはあの子次第じゃない?」
 政樹の問いに答える夏香。
「彼女次第、ねぇ…」
 再び、なのはの方を見る二人。

 なのはとイースターの対峙。
「フン、その歳の少女にしては肝がすわってるじゃないか。だが、勘違いするな。ここは遊び場でも、実力試しだけの場でもない!」
「……」
「ここは戦場だ、格闘技という名の。いったんゴングが鳴れば、止める奴なんざ誰もいない。殺るか殺られるかの世界なんだよ!」
 殺るか殺られるかの世界。
 その言葉を聞き、かつての炎虎との試合を思い出すなのは。
「俺のやり方でもある『セメント』はショーのそれとは訳が違う。まさに殺る
か殺られるかの真剣勝負だ! お前はそれを受けられるか?」
 炎虎戦の試合前と同じ感情がこみ上げるなのは。
「私は最初からそのつもりです…」
 その表情は覚悟に満ちていた。
「それを聞いて安心したぜ。お前が『遊び』でここに来たのかどうか、確認したかったからな…」
 構えるイースター。
「これで心置きなく、あんたを潰せる!!」
 もう、イースターはなのはを一人の『敵』として認識したようだ。
 なのはも構え始める。
「私は、あなたが思ってるほど簡単には潰れない!!」
 彼女の両拳に力が入る。
「是非、そうしてくれ。こっちも容赦はしないからよ…」
 二人の間に主催者側が用意したレフェリーが割って入る。
「レディー、ファイッ!!」
 レフェリーの声がかかった。
「ウオォォォォォ〜!!」
 始まると同時にイースターは、猛スピードでなのはとの距離を詰め始めた。

(私は…勝つ!!)
 対するなのはも足に力を溜める。
 そして、イースターがある程度の距離まで近づいた刹那、体重をのせた足でダンッと地を駆け出していく。
「やぁぁぁぁぁ〜っ!!」
 14の少女とは思えぬほどの突進力を利用した正拳突き。
 この大会の為に特訓した技の一つだ。


 

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