翼の拳
〜Fists of Wings〜


第61話

作者 島村鰐

「だぁかぁらぁ!俺一人でいいって、そんなぞろぞろぞろぞろ
カルガモの親子じゃあるまいしさぁ!!」

一方こちらはホテルのロビー。
金髪の少年が体格の良い男たちの集団に怒声を放っている。
日向義仲とコーチ、大会参加に着いて来たジムの同僚たちである。

「一人でいいだと、バカを言え!オマエこの大会のルールを呑み込んで
いない訳でもないだろう!」

コーチが切り返す。

「カードが発表されれば、この街の全てがリングと同じ!
決められた時間枠のうちに当事者同士が出合えば、そこですぐにも戦いが始められる。
しかも不意打ち、闇討ちなんでも有りだぞ?
いつ何処で闘いが始まるか判らんのに、私がセコンドとしてついてもおらんで、おまえ一人で闘いきれるのか!百年早いわ」

「まあそう言う理由でコーチがくっついてくるのはわからなくもないけど…
こいつらは別にいいだろ?一緒じゃなくても!」

義仲は5〜6人固まって着いてきているジムの仲間を指差した。

「何を言う!おれたちだってなぁ、ジムの後輩であるオマエの事が心配で…」

心外だと言う調子ではあるが、その芝居がかった口調では、こちらはどちらかと
言えば単に試合を最前列で見られるという野次馬根性のようだ。

「うるせぇ!こんなに沢山でわめかれたってかえって足手まといだろぉ!?
だいたい俺一応『遊びに』出るんだぜ?こんな男ばっかでぞろぞろ連れ立って行けるかよ、気持ち悪ぃ!」

「あ、待て、ヨシ!!」

コーチらを無視して、義仲はすたすたとドアの方へ歩いて行く。
が、不意にその足が止まった。
入り口の方から逆に入ってくる人影に、見覚えが有ったからである。

いや、義仲以外の人間、ロビーにいた人間のことごとくもが、
そこに現れたものに吸い寄せられていた。
それは銀髪、赤い瞳、透通りそうな色の無い肌の白子(アルピナ)の
少女であったが、息を飲むような美と浮世離れした雰囲気を備え、
人目を引かずにおかない存在感を放っていて…
それが、巨大な紙袋を抱えて立っていたのであった。
しかし義仲はそう言う少女の様子に感じた風も無く、頓狂な声を上げる。

「ああ?おまえ、なんでこんなところにいるんだ?」

彼やジムの仲間にすれば、実は彼女は馴染みの顔であった。


 

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