翼の拳
〜Fists of Wings〜


第64話

作者 島村鰐

「あーっ!!てめえらいいかげんにしろ!!」

はたかれまくって、とうとう義仲は破裂する。

全くただでさえこの煩い連中にいいかげんイライラしていたところへ、
よりによってゼウスが現れたことによってそのうっとおしさが三倍増しである。

「とにかく俺はもう行くからな!
 おまえらはゼウスの弁当食ってテレビでも見てろ!」

「おい、つれねえぞ、義。
 折角先輩である俺たちが…」

「じゃかぁしい!着いて来られると気が散るんだよ!
 おまえら俺を負けさせたいのかよ!?」

ちゃらけていたジムの中間達も、義仲の怒気に圧されて、一寸怯む。
試合の結果への影響を口にされると、さすがにふざけた扱いは取り辛い。

「待て、義。俺はついていくからな。オマエの試合にセコンドは必要だ!」

「うぐ…」

今度は義仲が怯む。
確かにこのコーチの現は理屈で反論しづらいものがあるのであるが…
不意に義仲の脳裏にひらめいた思い付き。

「おい、ゼウス!」

「は、はい!?」

義仲は突然、それまでジムの人間たちの騒動に置いて行かれていた
少女のほうに向き直り切り出した。

「おまえ確か前からセコンドの勉強してたよな?」

「は、はい!」

突然振られた話に驚きつつも、ゼウスは必要以上に大きく何度も頷いた。
だが。

「どんな間合いからでも、顔面に蹴りが打てます!」

「ま、待て!そりゃセコンドじゃなくテ…」

「よおっしゃ、OKOK、問題無いぜ!
 じゃ、そういうわけで、俺ゼウスにセコンド着いて貰うから、
 コーチは来なくていいよ。」

あまりに見当違いなコメントを得意満面に語るゼウスに
突っ込みもワンテンポ遅れたコーチに向かって、
ゼウスの持ってきた差し入れの山を押し付けると、
義仲はやにわにゼウスの手を取りさっさと走り出す。

「じゃ、行くぜ!」

突然手を握られたことで真っ赤になって固まるゼウスを引きずり、
その一瞬の所業に絶句に歯噛みするジムの仲間たち、
あまりにとっぴな物言いに呆然とするコーチを尻目に、
義仲はホテルから遁走したのであった。


 

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