翼の拳
〜Fists of Wings〜
第65話
作者 島村鰐
| 「ふぅ、やぁっとうっとおしいのから解放されたぜ」 義仲は心底すがすがしいように、伸びまでして言った。 「悪ィね、変な風にダシにしちまった」 ゼウスの方を振り返り、笑む。 「い、いえ、そんな。楽しいですよ!」 何となく返事としては噛合っていなくておかしいが、 これが今の彼女の正直な気持ちでもある。 二人が今いるのは、シティの丁度中央に造られている大公園である。 広々とした敷地に豊富に植林がされて木陰多く、 周囲を高層ビル街に取り巻かれていることを感じさせない。 晴れてもいるので、辺りには散歩をする人、太極拳をする老人など、 随分のんびりとした空気である。 しかし、例の大会のために作られた街とあって、普通なら少なくもないであろう 小さな子供連れの姿だけは無い。 この公園も、場合によっては肉弾相打つ闘場と化するのである。 しかし、二人が今歩くこの公園はおおよそそのような空気とは縁遠かった。 赤い瞳に銀髪の美少女は、上着、ブラウス、ひざ下までのロングスカート、 帽子、靴、小さなバッグと、全て柔らかな白い服を着て、初夏の木漏れ日射す 緑多い公園をしずしず歩いた。 その白さと清楚な美容はあたたかな黄緑の中で白くほのかな光りを発し、 マグリットの絵画のように清しかった。 一方、その少女の先に立って歩く金髪の少年は、 ショートパンツ、Tシャツ、パーカー、バッシュ、 逆向きに被ったベースボールキャップ。 全て大きくルーズなものを選び、黒と赤という色でまとめていた。 帽子からあふれている金髪は彼の表情と共に、 今にも叫びだしそうな印象を発散し、さしずめ盛夏の強烈な照射のように、 今の初夏の陽よりも明るかった。 そして彼はその照射するエネルギーの印象の通りに、尊大に力強く、 大股でずんずん歩いた。 そのため、後から来る少女とは歩調が合わず、 彼はしばしば立ち止まって後ろを振り返ったが、 しかしそのことで苛立つような素振りは微塵も見せないのであった。 公園という状況、連れ立って歩く少年少女という絵ではあるが、 片や清楚可憐な令嬢、片ややんちゃな悪ガキ丸出しの二人の姿は やはり幼いカップルというにはいかにもアンバランスであるのは ――そのアンバランスをかえって似合いと捉える向きもあろうが――否めない。 もっとも、当の二人の一方、少女の方は先程手を握られた余韻と共に、 そんな周りの見様など気にすることも無く今の状況に酔っていたのであった。 「お、ここがいいや。悪い、さっきの弁当食っちまうから、 一寸待っててくれる?」 公園の一角、小さな噴水のある広場で義仲は何度目かに振り向いて言った。 傍らのベンチの砂を荒っぽくしかし綺麗に払いゼウスを座らせ、 自分も腰をおろす。 |