大統領ゴライアス・ゴードン
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| 飛行場に構えるガイア共和国大統領専用機。 それは通常の旅客機の規模をはるかに超える。 搭乗口から入ると数人の大統領を護衛するSPたちが待機するスペース。 そこをぬけると、報道陣や首脳陣のために広くとられた座席スペース。 そのスペースから階段を上れば、大統領専用シート、喫茶室、会議室もある。 軍事管理システムも搭載されており、有事の際には機内にいながらにして 作戦の指揮をとることもできる。 床下には当然ながらトランクルームがあり、搭乗者の荷物が保管されている。 (現在平坂雪絵嬢格納中) 各国の報道陣でにぎわう機内。和やかな談笑が響く。 「‥‥まもなく大統領がお越しになります!」 SPの声で場に緊張が走る。 自然に場は沈黙した。 入り口の方から、搭乗階段を上る足跡が響く。 その足が機内に踏み入り、真紅の絨緞を踏む。 そしてSPたちが控えるスペースを通り、座席スペースへと進む。 全員の目が新たに来た搭乗者に集中する。 一同の前に、ガイア共和国大統領ゴライアス・ゴードンが姿を現した。 ダークスーツをまとった201cmの巨躯。冷徹な瞳。 そしてその体全体から溢れるようなオーラ。 一同は、そこに"華"が咲いたような感覚におちいった。 ほうっ、と溜息をもらす者もいた。 笑みをふりまくわけでもない。労いの声をかけてくるわけでもない。 ただ、そこに彼がいるだけで、不思議な納得感と安堵感を一同は覚えた。 「大統領閣下、離陸は10分後でございます」 ゴードンの横に控える老人、大統領補佐官キルマーが口を開く。 座席スペースを通り抜け、2人は階段の上へと消えていった。 2人が消えてからもしばらく、沈黙は続いた。 まるで残り香を堪能するかのように。 「どうも、ご苦労様です!」 アルバンスは大統領専用機の前で待機していた検査官に挨拶した。 後ろにはマッジオとバンハイ、そして新たに合流した小太りの男チュン、 まだ10代とおぼしき少年ロネもいた。 「‥‥‥‥。」 検査官が、お世辞にも綺麗な格好とはいえないアルバンスに胡散臭げな視線を送る。 「‥‥ハハ、悪ィなぁ〜、ここんとこ忙しくて忙しくてヒゲ剃る暇もねぇのよ☆」 「‥‥‥‥」 金属探知機をクリアする一同。 検査官が黙って5人の証明書をチェックした‥‥。 機内に入ったアルバンスたちを4人のSPたちが迎えた。 「どうも〜☆、ラバンダの報道記者、アルバンスです」 これまた明るい笑顔で挨拶する。 「ようこそ。この後行われる大統領への取材は各社10分以内でお願いします」 「やなこった」 アルバンスの握った拳銃が4人の額を撃ち抜いた。 総理官邸は右往左往の大騒ぎとなった。 「ゴードン大統領の飛行機がハイジャックされただとぉ!?」 小竹総理が声を荒げる。 「はい‥‥5人の銃を持ったテロリストに占拠されたようです‥‥」 「そ、それで中の人たちは‥‥」 「それが、次々に解放されているそうです」 「なんだと?」 「どうやら犯人グループの目的はゴードン大統領1人のようです」 「くっ!‥‥テロリスト共め‥‥」 頭を抱える小竹。 「なにも日本でやる事ァねえじゃねぇか‥‥ッ!」 「ザコに用はねえ!ゴードンを探せ!」 チュンとマッジオに入り口を見張らせ、アルバンスたちはゴードンを探す。 機内にいた報道陣と機長たちはすでに追い出していた。 階段を上がったところにあるプレジデントルームに着く。 拳銃を握ったロネが唾を飲み込む。 「この向こうに、ゴードンが‥‥」 「みたいだな‥‥」 バンハイの顔にも緊張が走る。 アルバンスが扉に手をかける。鍵はかかっていない。 扉を開け、三人は一気に中に駆け込んだ。 プレジデントルーム中央に立つゴードン。 両手は背広のポケットに入れたまま、目が三人を静かに見据える。 「‥‥‥‥!」 ロネは自分の全てを見透かされているような妙な興奮を覚えた。 「ロネ!銃を下ろすんじゃねえ!!」 「!」 アルバンスの一喝で我に返る。 「なんで銃を持ち込めたか不思議か?後でゆっくり説明してやる」 ゴードンの横にはキルマーが控えていた。 「キルマーか。補佐官に用はねえ。出て行け。後で無線でお前に詳しい要求を伝える」 アルバンスが銃を向けぶっきらぼうに言い放つ。 「閣下‥‥?」 キルマーが顔を見上げ、主の支持を仰ぐ。 ゴードンは「素直に出て行け」とばかりに顎をしゃくり、そして小声でキルマーに 何か囁いた。 「了解しました」 アルバンスたちの横をすり抜け、そそくさと出て行くキルマー。 補佐官が飛行機を降りたのを窓から確認した後、アルバンスはゴードンの方を向き直る。 「やっと会えたなァ‥‥ゴードンッ‥‥!」 かみ締めた歯がギリリと鳴る。野獣同然の凶暴な眼光をゴードンに向けた。 キルマーは管制塔へと向かった。 彼にはゴードンの言葉がはっきりと聞こえた。 『奴らの要求は一切のむな』 これが彼が今回ゴードンから承った、唯一の命令である。 |
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