大統領ゴライアス・ゴードン
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| 大統領専用機を包囲する警官隊。 めぐるましく行き交う無線の音とサイレン。 やがて来るであろう上からの命令を待ちつつ、準備を進めていた。 賑わう外とは対称的に、静まり返った機内。 かすかな硝煙と火薬の匂いが漂う。 拳銃を手に、まだ残っている人間がいないか見て回るマッジオ。 緊張した面持ちで彼について回るチュン。 床に転々と横たわる死体。SPだけでなく、抵抗しようとして射殺された とおぼしき報道記者や空港職員のものもあった。 プレジデントルーム。 大きくかたどられた防弾ガラス窓からまぶしいほどに陽光が注ぐ。 その光の中に2人の男がいた。 光を背にして立つゴードン大統領。 そのゴードンに拳銃を向けて立つアルバンス。 「大統領専用機とは豪勢なこったな‥‥」 アルバンスが銃をむけながら、ゴードンの背後へと回った。 「こんな立派な部屋、てめぇにゃ勿体ねえ。下へ降りてもらおうか」 背中に銃を突きつける。 「‥‥‥‥。」 ゴードンは彼の言葉に従った。 アルバンス、バンハイと共にゴードンに銃を向けながら歩くロネ。 目の前に、ゴードンの大きな背中が広がる。 「!‥‥‥‥」 今はこちらが支配者。向こうは人質。 立場は完全にこちらが上。 しかし、ロネは自分が要人をエスコートさせてもらっているような 感覚をぬぐえなかった。 「座れ」 アルバンスの言葉に従い、ゴードンは一般座席の最前列に腰をおろした。 目の前にアルバンス、バンハイ、チュン、ロネが立つ。 「チュン、マッジオはどうした?」 「入り口を見張っている。飛行機の周りはえらい騒ぎだぜ」 チュンが愛嬌のある笑みを見せる。 「さて‥‥」 アルバンスが目の前の人質を見据える。 「先に言っておくが無駄な抵抗はしないこった。こっちには ボクシングの世界ランカーもいるんだからな」 バンハイがムフリと微笑む。 「なぜこの機に銃を持ち込めたかわかるか‥‥?」 無表情のままのゴードン。 「俺たちの持っている銃はな、みな金属ではなく強化プラスチック製だ。 弾丸も同じく新技術で強化プラスチックと硬質ゴムを組み合わせた 代物だ。『マリンボール』、金属の物に比べりゃ威力は劣るが、 十分殺傷力はある。しかし、考えてみりゃ説明する必要はなかったな‥‥」 皮肉っぽい笑みを浮かべるアルバンス。 「他でもない、あんたが考案したんだからな。死の商人め‥‥」 「‥‥‥‥。」 依然、表情に変化を見せないゴードン。 「手に入れるのに苦労したぜ。武器と偽造証明書で俺たちみんな 全財産はたいちまった」 再び険しい表情になるアルバンス。 そして言葉を母国のものに切り替えた。 「‥‥ラバンダ語、わかるよな?」 言葉に力がこもる。 「最初に俺たちの国に来た時、演説で流暢にしゃべってたからな。 ラバンダを忘れたなんて言わせねえぞ。 アジアにある小さな島国、てめえの国がのし上がる為に、 食い物にされた国の1つだ‥‥!」 憎憎しげに言い放つ。 「あんたこう言ってたっけな、『我々と共に歩めばラバンダは6年で 近代国家へと生まれ変わる』と‥‥ あの時俺たちは喜びに打ち震えたぜ。農業で細々と食いつなぐことしか できなかった俺たち1人1人がみんな自動車を持てる、 冷房のある家に住める、電気と水道に囲まれた豊かな暮らしが できるってな‥‥」 銃を握る手にも力がこもる。 「だからあんたの事業にみな協力し、労力も惜しむことなく提供した。 未来を信じて‥‥。しかし全てがウソだった!」 相変わらず無表情のゴードン。眉一つ動かさない。 「てめえはラバンダから資源を掘り尽くすだけ掘り尽くした後、 サッサと手をひいちまいやがった! 後に残ったのはポンコツになった機械と、川を汚すしか 能のなくなっちまった空っぽのコンビナートだけだ!! 自然に囲まれたアジアの楽園と呼ばれたラバンダは今や死の大地だ!!!」 激昂するアルバンス。 「てめえが俺たちの国を滅ぼしたんだ!! 他の国に訴えても誰も耳を貸してくれやしねぇ! 先のねえ国よりガイアになびいた方が得、って寸法だ! おまけに汚れた水のせいで死人まで出る始末‥‥」 怒号が嗚咽に変わってゆく。 「娘はまだ‥‥10才だったんだぞ‥‥!」 依然、ゴードンの表情に変化はなかった。 「あくまでダンマリを決め込むか‥‥。まぁいい、どちらにしろ もうてめえはおしまいだ。これからマスコミをかき集めて、 てめえの悪行をリアルタイムでブチまけてやる。バンハイ、 こいつを見張ってろ。今から無線で外と連絡を取る」 「オーケィ」 「あとな‥‥」 ゴードンの鼻先に拳銃が突きつけられる。 「自分の命の事は‥‥諦めるこったな」 |
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