大統領ゴライアス・ゴードン


大統領専用機の機底部にあるトランクルーム。
”どすっ” ”‥‥どすっ”
扉の中からから、不気味な音が響く。
『‥‥カチャリ』
鍵の音がし、中から1人の少女が這い出てきた。
「ハァ‥‥ハァ‥‥」
暗い機底部とはいえ、新鮮な酸素の恩恵を受けた平坂雪絵の顔色が
みるみる良くなっていった。
元気を取り戻し、立ち上がる。
「アホかっつーのよッ!窒息するっつーのよッ!死ぬっつーのよッ!
 殺す気かぁーッ!」
やり場のない怒りを、腰の入ったローキックで扉にぶつける。
「まったく‥‥内側に手動の鍵がなかったら本当に死ぬとこだったわ‥‥
 それよりもここどこよ?イテテ‥‥」
ジンジンと痛む足を抑え、そばの階段を上る。

真っ赤なカーペットが敷き詰めてある階層に出た。
(う‥‥まぶし‥‥)
周りの明るさに、まだ目が慣れないままスタスタと歩く。
(なに‥‥なんか花火の匂いがする‥‥)
ふと、”ペチョッ”と音がした。
浅い水たまりに足を踏み込んだような感触。
(げ、なんか踏んだ‥‥?)
足元には赤いカーペットが広がるだけで他には何もない。
その場で足踏みする。
『ピチャッ』
しかし、嫌な感触は確かにあった。
しゃがみこむ雪絵。床をじかに手で触る。
カーペットの赤が雪絵の指に”移った”。
「なんだ、赤い水たまりか‥‥」
やがて目が慣れてきて、それが『血』だということに気づいた。
「へ‥‥あ‥‥あ゛ーーーーーーーッ!」
大慌てで指をそばで寝ていた人の服にこすりつける。
「あ゛ーーーーーーーッ!!」
それが”死体”だと気づいた。
「あ゛ーーーーーーーッ!!!」
まわりが”死体だらけ”という事に気づいた。
「あ゛ーーーーーーーッ!!!!」
自分が”超ヤバイ場所にいる”事に気づいた。
「に、ににに、に、にに逃げないと‥‥」
きびすを返した瞬間、鼻先に銃が突きつけられた。
「ヒィィィーーーッ、ご、強盗ぉぉぉ!!?」
銃を持っていたのは体格のいい外国人風の男2人。
「あ゛ーーーうっ、ううう撃たないでぇぇぇッ!ホールドアーップ!!」
両手を上げる雪絵。

呆気にとられるマッジオとチュン。
「マッジオ‥‥こいつ『ホールドアップ』つって、自分で手上げてるけど‥‥」
「どうやら日本人の女の子らしいな‥‥まいったな‥‥俺、日本語はあまり話せないぞ‥‥?」

男たちが知らない言葉で話しかけてきた。
動転する雪絵。
「あ、あああ‥‥アイム・オカネ・モッテナイデース!!」

肩をすくめるマッジオ。
「ダメだ、ラチがあかん」
「逃がしてやるか?」
「いや、いままで機内のどこにいたのかが気になる。一応アルに聞いてみよう」

男たちに後ろから銃を突きつけられ、連行される雪絵。
(あ、あたし、どうなっちゃうの〜!?)


「一体なんなんだ、俺はいそがしいんだぜ‥‥?」
アルバンスがタバコを口にくわえ、雪絵をまじまじと見る。
冷や汗タラタラで直立不動のまま動かない(動けない)雪絵。
マッジオが戻ってきた。
「今機内の底の方も調べてみた。どうやら貨物室に潜んでたらしい」
「密航者か?」
「さぁな。ところでこの子、どうする?」
「一般人に用はない。抵抗する気がねぇんならとっととお引取り願え」
「そうか‥‥」

眼鏡にヒゲの男が「行け」とばかりに搭乗口を指した。
ホッとする雪絵。
(よ、よかった‥‥生きて帰れるんだ‥‥ん‥‥あ!‥‥)

「あ゛ーーーーーーーーッ!!!!!!」
慌てて腕時計を見る雪絵。
ちょうど恋人との約束の時間になっていた。
「ひぇぇぇぇ待ち合わせに遅刻しちゃうぅぅぅぅ!
 は、そ、そうだ、携帯で連絡しなきゃ‥‥!
 で、でも今の騒ぎでまた壊れてないかしら‥‥?」
おそるおそるポケットから携帯を出す。
壊れては‥‥‥‥いなかった。
「ホッ‥‥よ、よかった〜早速ひーちゃんに電話を‥‥」
アルバンスの拳銃が火を噴き、携帯は粉々に砕け散った。
「あああああああんたなんばしょっとねェェェッ!!?」
猛る雪絵の鼻先に拳銃が突きつけられる。
「ごめんなさいホールドアぁーップ!!」
再び手を上げた。

雪絵を睨みつけるアルバンス。
「こいつ何考えてやがる‥‥?俺たちの目の前で堂々と外と連絡取ろうと
 しやがった‥‥気が変わった!こいつは得体がしれねえ。
 ゴードンの隣に座らせとけ」

再びマッジオとチュンに連行される雪絵。
(ううう‥‥あ、あたしなんにも悪い事してないのにぃ‥‥!)


 


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