大統領ゴライアス・ゴードン
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| 一般座席スペースへと連行された雪絵。 自分がこれからどうなるのか皆目見当もつかない。 連行される途中に見える、床に点々と転がる死体がさらに恐怖心を煽る。 そして一般座席の最前列、黒いスーツを着た大男の隣に座らされた。 ふぅ、とタバコの煙を吐くアルバンス。 「それじゃあ俺とマッジオは無線で外との連絡を取り直してくる。 バンハイは搭乗口の番、チュンとロネはこいつらを見張ってろ」 (ううう‥‥この人たち何喋ってるのかさっぱりわかんない‥‥) リーダー格とおぼしき人物が、母国語で何かを話した後、眼鏡の男と共にその場を離れた。 その場に残った小太りの男と、雪絵と同い年くらいの少年が、少し離れた場所から自分たちをスキのなさそうな視線で見張っていた。 雪絵はふと、隣の男を見た。 自分と同じ監禁状態であろうにもかかわらず、落ち着いた物腰。 立ち上がれば2mくらいあるのではと思われる長身。 膝下まである長いコート、否、背広。 欧米人であろうか。白い肌に、ポマードで後ろにならされたブロンドの髪。 頑健そうな長いアゴに、ひきしまった太い首。 そして誰を見るでもない、まっすぐ正面を見据えた青い瞳。 (生きて‥‥るの?‥‥何か話しかけてきてもいいのに‥‥?) 雪絵は無遠慮にジロジロ眺めたが、その男は話しかけてくるどころか、 こちらを見ようともしない。 (‥‥‥‥‥‥。) 雪絵はなんとなく手をのばし、男のアゴをサワサワと撫でてみた。 「!‥‥」 突如太い首がうねり、男の目と視線が合った。 「!!!‥‥あ、ご、ご、ごめんなさいっ!!!」 慌てて手を引っ込める。 カミソリのような鋭い目に射抜かれ、雪絵は思わず背中がヒヤッとした。 「あ、ああああの、その、と、とても触り心地の良さそうなアゴだったもんでつい‥‥!」 「‥‥‥‥。」 再び正面に向き直る男。 別に怒っている様子は、ないようだ。 (あーびっくりした〜‥‥) 胸をおさえる雪絵。心臓がバクバク鳴っていた。 そして、しばしの沈黙が流れる。 その「沈」を破ったのは、雪絵だった。 『ぐ〜〜きゅるきゅる‥‥』 赤面する雪絵。 (お腹へったなぁ‥‥‥‥あ、たしかポケットに‥‥) ゴソゴソとポケットからアルミ箔に包まれた板チョコを出す。 食べさしだったが、まだ四分の一ほど残っていた。 「あ、あの‥‥」 「‥‥?」 男の顔が少し、雪絵の方に傾く。 板チョコを2つに割る雪絵。 「よかったら半分‥‥どうぞ‥‥」 おずおずと割った片方を差し出す。 「‥‥‥‥。」 チョコをつまむようにして受け取る男。 そのまま口に含み、正面に向き直った後、静かに咀嚼した。 その様子をみて、雪絵もチョコを食べ始める。 (それにしても‥‥この人‥‥‥‥どこかで‥‥) 見た事がある。それも頻繁に。 (確か‥‥テレビで‥‥) テレビや新聞でここのところ毎日見ている顔だった。 (!!!) ついに目の前の男の顔と、雪絵の記憶が一致した。 「ガイア共和国の‥‥‥‥アゴードン大統領‥‥!」 「ゴードンだ」 初めて男が口を開いた。 「あ、あの‥‥日本語、上手なんですね‥‥」 雪絵は緊張に緊張を上塗りした面持ちで隣の男に話しかけた。 「テレビのインタビューとかでも、日本語でスラスラ話してましたし‥‥」 「外国語は覚えておくに越した事はない。得する事ばかりだからな‥‥」 ゴードン大統領は相変わらず正面を見据えたまま、淡々と喋った。 「あの、大統領‥‥あの銃を持った人たちは一体‥‥」 「‥‥‥‥君の想像しているとおりの連中だ」 「ぎ‥‥銀行強盗‥‥」 「ハイジャックだ」 成田空港に、複数のパトカーに囲まれながら、黒塗りのリムジンが到着した。 後部ドアが開き、中から頭の禿げ上がった、頼りなさげな男が現れた。 「それで、事態はどうなってるのだ?」 小竹武(こたけ・たけし)総理大臣は50代とは思えぬ健脚ぶりで、 足早に空港管制塔へと向かった。外務大臣もなんとか小竹についていく。 警官も走りながら説明する。 「依然、膠着したままです!保護されたキルマー補佐官に後から無線で連絡すると言っています!」 管制室にたどり着くと、そこは空港職員と警官たちが固唾を飲み、犯人グループからの連絡を待っていた。 そして中央に立つ、落ち着き払った1人の老人。 160cmほどの背丈。白髪のオールバックに手入れされた顎鬚。垂れ気味の目の左側には丸い片眼鏡がはめられている。 「お早いお着きですな、総理‥‥」 大統領補佐官・キルマー・バレンタインは小竹に挨拶した。 |
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