大統領ゴライアス・ゴードン


小竹に耳打ちする外務大臣。
(そ、総理‥‥このままいいとこ無しで終わったら日本はガイアに対して
 かなり立場が弱く‥‥)
(わ、わかっとるわっ‥‥!し、しかし、どないせーっちゅうねん‥‥)
丸い頭に、冷や汗がひっきりなしに流れていた。

無線機の説明をする職員。
「自動カメラがついておりますので、互いに顔を見ながら話すことができます」
「く、くれぐれも犯人を刺激しないようにしてくださいよっ!」
小竹が注意をうながす。
「承知しました。つなげてください」
キルマーが目の前の画面を見る。
画面に電源が入り、一人の男が映し出された。
精悍なアジア人風の男。

*『確かにキルマーだな‥‥今から要求を伝える‥‥』

「なんなりと」
キルマーが落ち着いた口調で答える。
小竹が横から割り込んだ。
「おい!ゴ、ゴードン大統領は無事なんだろうな!?」
「そ、総理っ!」
外務大臣が慌てて小竹を引き離す。
「‥‥‥‥。」
キルマーはかなり迷惑そうに小竹を睨んでいた。

*『ゴードンは無事だ。今我々の監視下にある』

「そ、そうか‥‥」
とりあえず胸をなでおろす小竹。
しかし、1つの疑問が浮かんだ。
(‥‥このキルマーとかいうじいさん、補佐官のくせに大統領のことが
 心配じゃないのか?普通第一に大統領の無事を確認するもんだろ‥‥?)

*『我々の要求は‥‥今すぐ集められるだけのマスメディアを集めてもらうことだ。
 テレビ、ラジオ、新聞全てだ。そして我々の話すことを全世界に伝えてほしい』
「‥‥どういうことですかな?」
*『‥‥それはお前は知らなくてもいいことだ。要求を拒否すればゴードンの
  命はない。さぁ、返事をしろ』

「お断りいたします」

キルマーは即答した。
*『‥‥なんだと?』
小竹が思わず口をはさんだ。
「な、な、な、何考えてんだぁぁぁぁッ!!?犯人刺激すな言ぅたやろォ!?
 お前話聞いとったんかぁぁーっ!?」
「お答えしたとおりでございます。ガイアはテロに屈しませぬ。
 これは、大統領閣下の御意志でございます」
興奮している小竹に対し、依然冷静沈着なキルマー。
「し、しかし‥‥事は命がかかっているのですぞ!?」
「閣下は政務にたずさわった時から、御自分の命は度外視されております」
おお‥‥、と管制室に、ゴードン大統領に対する畏敬の空気が流れた。
一方、面白くないのは小竹総理。
(クッ‥‥ジ、ジジイなかなかカッコいい事言うじゃねぇかっ‥‥!
 いかんぞ‥‥このままではますます私の威厳が損なわれてしまう‥‥!
 な、なにか私の好感度をアップする方法はないものか‥‥!?)


焦るアルバンス。
「な、なんなんだこのジジイは‥‥!?正面きってつっぱねやがった‥‥!」
横からマッジオがアドバイスする。
「落ち着け!マスコミを集めてもらわなければこの計画は水の泡だ!
 キルマーが要求を拒否しても周りの人間が許さないはずだ!ここは奴らに
 時間を与えるんだ!」


*『‥‥1時間、時間を与える。その間によーく頭を冷やすんだな』
管制室に再び、緊張が走る。
*『では、通信を切るぜ‥‥』

「ちょ、ちょっと待ったぁーっ!」

一同の視線が声の主、小竹総理に集中する。
*『‥‥なんだ?』
画面に向かって口泡を飛ばす小竹。
「わ、私は日本国の内閣総理大臣、小竹武だ!」
*『‥‥だからどうした?』
「人質を交換しようじゃあないか!ゴードン大統領の代わりに、
 私が人質になろう!」
「そ、総理っ!なにを言い出すんですかっ!?」
今度は外務大臣が口をはさんだ。
「日本国の総理大臣だ!人質として十分価値があるはずだろう!?」
「御自分の立場を考えてください!あなたは総理なのですぞ!?」
「私は総理になった時から、自分の命など度外視しているっ!!」
カッコよく決めたつもりのセリフではあったが、明らかにパクリだったため、
管制室にシラ〜ッとした空気が流れる。
「さ、さあ、悪い条件じゃないだろう!?」
*『‥‥‥‥‥‥‥‥』


*『ハゲに用はねえ』
通信は途絶えた。


成田空港第一旅客ターミナルにある、特別待合室。
総理用にとあてがわれたその部屋で、小竹総理はおおいに荒れていた。
「ハゲは関係ねぇだろハゲはよぉッ!!?
 あの野郎だってあと2、30年すりゃあ俺と同じ頭になるっつーんだよォ!!!」
顔を紅潮させ、椅子とか蹴ッ飛ばしていた。
(総理‥‥おいたわしや‥‥)
外務大臣は黙って見守る事しかできなかった。



管制室デッキから大統領専用機を見下ろすキルマー。
「‥‥。」
その表情からは、何を考えてるのかはうかがい知れない。

『奴らの要求は一切のむな』

キルマーはゴードンの命令に忠実に従っていた。


 


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