大統領ゴライアス・ゴードン
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| 循環するヴァイオリンの旋律が機内を駆け巡る。 「のどが渇かないかね?」 大統領が立ち上がった。 突然の行動に驚きそして、やはりデカい、と雪絵は思った。2mはあるだろう。 「何か持ってこよう」 「は、はい‥‥じゃなくって、え、あ、いや、私も一緒に‥‥」 「君はここにいた方がいい」 人差し指が雪絵の鼻先にビシッと突きつけられる。 「いいね?」 自分をまっすぐ射抜く視線。 「は、はひ‥‥」 逆らえるわけがなかった。 ホッと息をつく雪絵。 「気難しい人かと思ってたけど、大統領けっこういい人じゃん‥‥」 ついた息がまた止まった。 ゴードンと入れ替わったかのように、そこには目を血走らせたアルバンスと、 マッジオがいた。 (ひ、ひぇぇぇっ‥‥さっきの怖い人だぁぁ‥‥!) 「ち、畜生‥‥!やっぱりいねえぇぇ!!」 「落ち着け!非常口も破られてはいなかった。奴はまだ機内にいる!」 「おいてめえッ!奴はどこへ行ったァーッ!?」 アルバンスが少女の胸倉をつかんで詰問するも、怯える少女からは 「GU・GURUGY‥‥!」「IJIMENEY・DEKERO!」等、意味不明の言葉が出るばかり。 「くそ‥‥!」 「ここはバンハイと合流しよう‥‥」 搭乗口へと駆け出すマッジオ。 「チッ‥‥!」 アルバンスもそれに続いた。 「それにしても‥‥耳障りな曲だぜ‥‥!」 搭乗口。 「いってくるぜ。ロネとチュンの仇は‥‥俺が取るぜ‥‥!!」 銃を構えるバンハイ。 作戦は即、決まった。 3人の中で一番戦力的に劣るマッジオが搭乗口を見張り、アルバンスとバンハイがそれぞれ機内のどこかにいる『獲物』を探す。 「念をおしとくが、本当に殺しちまっていいんだな?」 「ああ、人質には少女を使う。 しかし油断するな。奴は武器を拾って身に付けているかもしれん。 それにこっちはすでに2人殺されてるんだ」 マッジオが注意を促す。 笑うバンハイ。長いマツゲが揺れる。アフロも揺れる。 「それじゃ向こうも殺人犯じゃねぇか。警察に言うか?」 「ジョークを言ってる場合か。法はもう俺たちを守ってくれやしない」 プレジデントルームや会議室を見に行ったアルバンスに対し、バンハイは機底部を探索する為、階段を降りた。 警戒しつつ、一歩一歩、進む。 薄暗い廊下に、扉が並ぶ。貨物室、起動部、給水室、ワインセラーetc‥‥ 「ワインセラーまであるのかよ。さすが大統領専用機‥‥」 突如飛んできたワインの瓶が、バンハイの銃を直撃した。 「!?」 5、6m離れた向こうに『標的』が立っていた。 全身を覆う黒衣に、機械のような鋭く、冷たい目。 (い、いつのまに?‥‥銃が濡れちまった‥‥!) チラリとゴードンの両手を見る。 武器らしい物は持っていない。 しかし服のどこかに隠し持っているかもしれない。 瞬時にバンハイは、武器を「自分の肉体」に切り替えた。 ボクシング世界ランカーのステータスが彼をそうさせた。 (武器を取るヒマはあたえねぇ!) 猛然とダッシュし、ゴードンの水月にボディブローをえぐりこませる。 2mを越える巨漢の本気のパンチ。 さらにアゴに狙いを定め左アッパーを叩き込む。 ここまで決まれば後は必殺の一撃を放つのみ。 右の拳を構え大きく振りかぶり、 「スマァァァーーーーーッシュ!」 捻りを利かせたストレートがゴードンのアゴにクリーンヒットした。 「‥‥決まったぜ!!」 勝利を確信したバンハイ。口元にムフリ笑みが浮かぶ。 今までこのコンビネーションを喰らった相手は必ずキャンバスに沈んだ。 まさか即反撃が来るとは。 その水月にボディーブローが叩き込まれるとは。 「!?」 体が「く」の字に曲がる。 内臓破裂。続けてその首に左アッパー。 「!??」 飛び散る歯。 頚椎破損。そして顔面へのストレート。 「!‥‥‥‥」 頭蓋粉砕。 「お待たせした」 ワインの瓶とグラスを、トレーに載せて帰ってきた大統領。 「あ、あのさっきハイジャックの、ひ、人たちが‥‥!」 「これを飲んで落ち着くといい」 ぽん、と小気味良い音を立ててコルク栓が抜ける。 (?‥‥コルクって、手で抜けるものなの‥‥?) 「フランス製の最高級品だ。温度管理もきちんとされている」 2つのグラスに赤透明の澄んだ液体が注がれる。 グラスを受け取る雪絵。 ゴードンもグラスを取る。 「乾杯」 「か、乾杯‥‥」 ちん、と音を立てて合わさるグラス。 雪絵は軽く口を付けた。顔が歪む。 (に、苦ぁ〜〜っ‥‥で、でもなんか「高級」な苦さというか‥‥) 酒に慣れていない雪絵には少々クセの強い甘さだった。 その様子を眺めるゴードン。 「‥‥どうやら君には少し、早すぎたようだね」 無表情は相変わらずだったが、心なしか雪絵の反応を楽しんでいるかのようにも見えた。 「他に何か、食べたい物とかはあるかね?」 「え‥‥?」 延々と流れ続ける輪舞曲(ロンド)。そしてほのかに漂う葡萄の芳香に、 あたかも雪絵は一瞬、高級レストランにいるような錯覚にとらわれた。 「な、なんか、ステーキとか出てきそうな雰囲気ですね!? やっぱり大統領にもなると機内食にステーキが出たりするんですか?」 「肉はやめておいたほうがいい。ここのはあまりうまくない」 |
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