大統領ゴライアス・ゴードン
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| 成田空港管制室は依然、重苦しい雰囲気に包まれていた。 「もうすぐ1時間が経ちますなぁ‥‥」 小竹総理がつぶやく。 キルマーを始め、誰も答えない。 (ノー・リアクショ〜ンかよッ‥‥!) きまり悪げに外務大臣の方を見たが、あいにく席を外していた。 と、その瞬間扉が開き、当の外務大臣が姿を現した。 「総理!まもなく国際警察のスペシャリストが来られます!」 一同の目が外務大臣に向く。 「スペシャリスト?」 「はい。幸運なことに、この成田のすぐそばのホテルに宿泊されてました!」 停滞していた管制室の空気がにわかに動き始めた。 「やはり飲み物だけでは寂しいな。何かつまみになる物を持ってこよう」 再び大統領がその場を去ろうとした。 慌てて止めようとする雪絵。 「い、いえお構いなくっ!それに、勝手に動いたらまたハイジャックの人たちが 怒るかも‥‥」 「心配はいらない、すぐ戻る」 まっすぐ向く視線。これが雪絵は苦手だった。 「さっきも大丈夫だったしね」 理屈になってない。なってないが、彼に見つめられそう言われると、なぜかそれが正論に思えてくる。 「はひ‥‥」 結局雪絵はまたゴードンの背を見送る事になった。 「マッジオ‥‥」 搭乗口を見張っていたマッジオの前にアルバンスが姿を現した。 狂気を帯び始めた鋭い眼光に、思わずギョッとした。 「‥‥アル!奴はみつかったか?」 表情から状況が思わしくないのは見て取れたが一応きいてみた。 「‥‥バンハイもやられた」 マッジオは愕然とした。 「‥‥なんだと?」 「クソ‥‥がァァァーーーーッ!!!」 壁を蹴りつけるアルバンス。 彼は機底部ワインセラーの前で見た光景を思い出した。 それはかつて「友」だった物。 ついさっきまで喋っていた友が、無残に横たわっていた。 彼とは何度か殴り合いの喧嘩をした事がある。 自分がいくら殴っても、ムフリ笑いを浮かべて向かってきた顔が、 醜く砕けていた。 ボクシングなどで彼が「負ける姿」は何度か見たことはあった。 しかしあそこまで凄惨な敗北の様は見たことがなかった。 「死」を与えられた敗北者。 それがバンハイでない事を願った。 床一面に広がっていた液体がワインである事を祈った。 しかし、それはかつて「友」だった物。 それが、「現実」だった。 アルバンスは悟った。 奴は逃げなどしない。自分たちを皆殺しにする気だ。 マッジオは考える。悲しんでいる暇はない。 「もう‥‥俺たちは離れ離れにならない方がいいかもしれん」 「ああ、いくぞ‥‥俺たち2人で奴を殺す‥‥!」 「‥‥!」 「ここでジッとなんてしてられるかよ‥‥!」 マッジオは恐怖していた。 どこから襲いかかってくるかわからぬ脅威。 右からか左からか。前からか背後からか。 (クッ‥‥これではまるでこっちが『獲物』みたいではないか‥‥!) 何か他に武器がないものかと周りを見やる。 床に、この機に搭乗した瞬間アルバンスが射殺したSPたちの死体が目に入った。 「!!‥‥お、俺はなんで今まで気がつかなかったんだ!?」 「?」 SPの死体を調べるマッジオ。 「アル!こいつらの武器を使うんだ!強化プラスチックの銃よりよほど役に立つはずだ!」 「あ、ああ‥‥!」 SPの死体を漁る2人。武器は山ほど出てきた。 しかし全部持つわけにはいかない。 なるべく身軽にしておきたい。 マッジオに吟味してもらった結果、アルバンスは黒光りする大型拳銃を手にした。 マッジオ自身は機関銃を装備した。どちらも弾丸は満タンだ。 すでに銃を持った仲間が3人やられていたが、それでもかなり心強くなったのは確かだった。 「アル、もうすぐ約束の一時間だ。交渉はどうする?」 「それまでにケリをつけるさ。あの子が逃げちまわないよう祈ろう」 天を仰ぐマッジオ。 「待ってろよ‥‥ゴードン‥‥!」 恐怖しているマッジオに対し、アルバンスは闘志に目をギラつかせた。 そして、2人は搭乗口を離れた。 スピーカーからは、ヴァイオリンやチェロの旋律にフルートやサックスが加わり、よりいっそう深みを増した管弦楽の小夜曲(セレナーデ)がながれていた。 |
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