〜炎の城〜
3 「幸運」
| (ハァ‥‥ハァ‥‥な、なんでこんな目に会わなくちゃいけないのよぉ〜っ!?) 炎は間一髪避けたものの、前髪が少しチリチリになった雪絵。 「私のファッションセンスにケチを付けるたぁいい度胸じゃあございませんこと?」 鋭いガンで威圧するミュー。 「ホラ、車に載りな。運んでやるから」 さっさと黒塗りの送迎車の方へ歩いていった。 (トホホ‥‥この人すっごく怖いよぅぅ‥‥もうこれ以上刺激しないようにしよっと‥‥) 「なにグスグスしてんの!さっさと来る!」 「は、はひ!」 急いで荷物のカバンを抱え、車の方へ走った。 が、床のタイルの目につまづいた。 「あわわっ!?と、と、と!」 こけまいと片足ピョンピョンする雪絵。だがとうとうバランスを崩した。 「あ゛ーーー!」 慌てて突き出した両手が、車に乗り込もうとしたミューの背中を押す形になった。 ガン、とイイ音。 ミューの背中に支えられて難を逃れた雪絵。 「ふぅ〜たすかった〜‥‥え?」 おそるおそるミューの方を見る。 こちらに背を向けていてわからないが、どうやら顔を車の屋根にぶつけたらしい。 (ひ、ひぇぇぇ〜っ!?) ミューの肩が小刻みに震えている。そして、ゆっくりと雪絵の方を振り向いた。 (ひああ〜‥‥!) 「て・め・え‥‥‥‥」 真っ赤になった鼻から、鼻血がツー、と垂れていた。 血走った目。額に青筋もクッキリと浮かび上がっていた。 「ご、ご、ごめんなさ一い!!ワザとじゃないんですーぅ!!」 「てめぇ‥‥ワザとやりやがったなぁぁ‥‥!!」 「ワザとじゃないって言ってるのにーッ!!!」 「てめぇブッ殺す!!!」 スラリと光る弧線が描かれたと思うと、ミューの手に一本のサーベルが握られていた。 「ひ、ひぇぇぇぇーーーーっ!!?(どこに持ってたのーっ!?) あ、あの冗談でしょっ!?」 「首トバされるか腹ブッ刺されるか、それとも手足斬り落としてダルマにされるか 好きなの選べや!」 刃の付け根から切っ先までレロリと舌をはわせるミュー。 どうやら殺る気マンマンのようです。 「あ、あああの、私一応客人なんですよっ、殺しちゃマズいですよ!?」 「上にゃあ「空港に客人はこなかった」って報告しとくぜ。安ッ心ッして死ね‥‥!」 「ひ、ひ、ひぇぇぇぇぇーーーーーーーッ!!!!」 『PPP‥‥PPP‥‥』 突然携帯の着信音が響いた。 「ん?誰だ?」 携帯を取り出すミュー。画面の発信者名を見る。 「なんだキル爺かよ‥‥もしもし?」 『私だ。キルマーだ』 「画面に出た名前見りゃわかるぜ、なんか用かよ?」 『随分と言葉が荒いな‥‥まさか客人に失礼な事はしていまいな?』 「え、えー?‥‥ホ、ホホホ、何おっしゃいますの? とても仲良くしておりますわ!」 サーベルをピュンピュン回しながら作り笑いで答えるミュー。 (な、だ、誰と話してるの‥‥?) その場に座り込んでいた雪絵。逃げたいが腰が抜けて立てない。 『‥‥少し客人と替われ』 「え、えー?」 しぶしぶ携帯を雪絵に手渡した。 わけがわからないまま電話に出る雪絵。 「あ、あのーもしもしぃ‥‥?」 『おはようございます。私、大統領補佐官のキルマーと申します』 雪絵もテレビや新聞などで知っている。いつもゴードン大統領のそばにいた老人だ。 「あ、おはようございます」 『ところで‥‥うちのミューが何か妙な真似をしたりしませんでしたかな?』 「ええ、いきなり火吐かれ‥‥」 背後から雪絵の首筋に「ピタピタ」とサーベルが当てられる。 「‥‥いえ、何もされませんですたぁぁ‥‥ミューさんとてもいい人れすぅ‥‥!」 『‥‥さようでございますか』 「はひ‥‥(お願い気づいてキルマーさぁーんっ!!!)」 『それならよいのですが‥‥もし何かされそうになったら すぐに逃げて最寄の警察に駆け込むようにしてくださいまし‥‥』 「はひ‥‥(そんな危険な奴迎えによこさないでよぉーーー!!!)」 素早く携帯を奪い取るミュー。 「そういう事ですので〜。それでは切りますわっ」 『ミュー、言っておくが必ずガーデンまでお送りするのだぞ‥‥ 客人はいなくなった、はぐれたなどの言い訳は一切通用せぬからな。わかったな?』 「う‥‥りょ、了解‥‥」 携帯を切るミュー。そして雪絵の方に向き直る。 ビビる雪絵。 「チッ‥‥運のいい野郎だ‥‥」 「!?(チッ、てなに!?)」 無事(?)車の後部座席へと乗り込む2人。 「ガーデンへやってちょうだい。あと音楽もかけて」 ミューが運転手に指示を出した。 エンジン音を立て、空港を後にする。 そして車内に音楽が流れた。 『♪あーーれーーまーーー とんでもねェあたしゃバカ殿だよッ☆』 『アイーン!』『アイーン!』『アイーン!』 「シビれるテクノですわ‥‥」 「な、なんでバカ殿のアイーンダンスなんですか‥‥?」 おそるおそる雪絵が聞いた。 「ゴードン様がご自身は不要になったからと、私にくださったCDですわ。 あのお方がお聞きになった音楽以外は聞く気になりませんわ」 「あ、あの、ちなみに他にはどんな曲が‥‥?」 「うん?そうね‥‥エアロスミス、ベートーベンの第九、ジャパニーズカブキの「勧進帳」とかもいただいたわね」 「そうですか‥‥(ゴードン大統領って、手広いというか節操がないというか‥‥)」 |
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