〜炎の城〜
4 「黒炎」
| ニューヘブンズヒル国際空港。 澄み渡った空。飛行場をつきぬける涼しい春風。 「1日で、十分だ」 黒の熱気が降り立った。 アラブ系であろうか。黒い肌に彫りの深い顔。 眼帯と顎鬚が異質な印象をより強める。 頭に巻いた黒いターバンの端は、背中へかけて長く垂れ下がっていた。 長身かつ細身の体にダークスーツを着こなした黒一色のいでたち。 そのため真紅のネクタイと胸にさした薔薇が際立って見えた。 その後ろについて歩く、1人の少年。 年の頃は15、6才くらいであろうか。 頭の羽飾りから始まるネイティブアメリカンを思わせる民族衣装。 大きな美しい瞳が印象的な、美少年。 先の男に比べ、その目はやさしく、むしろ冷めた感じだった。 年も恰好もちぐはぐ。しかし、その2人は不思議な統一感を見せていた。 「ゴライアス・ゴードンに会って話を聞く。それだけで用事は済む。 遅くても明日には出発するぞ、ディー?」 「はい」 ディー、というのが少年の名前らしかった。 ディーは空を見上げた。 澄み渡った、青空。 これが観光できたのなら、彼は心地よい空と風を堪能しただろう。 しかし今はそれらを素直に楽しむ余裕はなかった。 ここへは任務できた。 場合によっては、人を殺さなければならないからだ。 秘密結社「暦」(カレンダー)幹部 7月"炎を運ぶ"レシェフ 12月"凍てつく冬の"ディー 2人はガイアの地に降り立った。 「ゴライアス・ガーデンへやってくれ」 空港からタクシーに乗り込み、レシェフは言った。 愛想の良い運転手がうなずき、車を動かす。 「いや〜さっそくガーデンへ行かれますか。あそこは確かに観光の目玉ですからねぇ! 20分くらいで着きますよ。‥‥お客さんアラブの人ですか?」 運転手が笑顔で話しかけてきた。 「アメリカ人だ‥‥アラブ系ではあるが」 「そうですかぁ〜、それにしても可愛らしい坊ちゃんですねぇ、 いや私にも15になる息子がいるんですけどね、これがまた‥‥」 「すまんが‥‥私たちは長旅で疲れている。寝かせてほしい。着いたら起こしてくれ」 「ああ、はい‥‥」 車内が静かになる。 レシェフは外の景色を眺める。眠る様子はない。どうやらただ運転手と喋るのが わずらわしかったようだ。 ディーも同じく自分の側の窓から景色を眺めていた。 「‥‥‥‥。」 レシェフは考える。 事の発端は日本で起こったガイア大統領機ハイジャック事件だった。 『暦』は直接関わってはいないが、犯人であるラバンダのテロリストグループには色々と手を貸した。 無政府主義を唱える『暦』は、己の正義のためにガイア共和国大統領を抹殺せんとしたテロリストグループに快く手を差し伸べた。 レシェフも直には知らないが、武器や大統領機に侵入できるだけの装備を工面したりしてやったらしい。 ゴードン大統領はラバンダを散々食い物にしたらしい。 やったらやり返される。それが世の常。 レシェフは正直、小さな国同士のいがみ合いにさほど興味はなかった。 ただ、「所詮は小さな田舎島国の大統領、あっさり殺されるだろう」と踏んでいた。 しかし予想は覆された。 アルバンスをリーダーとするテロリストグループは全員死亡。ゴードン大統領は無事に帰還。 『暦』がお膳立てをしたにもかかわらず。 予想外の事態が起これば原因を調べる。 アルバンスたちは仲間割れしたらしい。なぜ仲間割れしたか? 彼らの死因は? どこでどういうふうに死んだのか? 交渉をなぜ途中でやめたのか? 武器を持ったテロリストに囲まれゴードンはなぜ無傷だったのか? 一緒に人質になっていた少女は関係あるのか? いくら調べても、はっきりとした答えは見つからなかった。 事件の痕跡はうやむやにされていたのだ。 「答えは一つだ‥‥」 運転手が振り返る。 「なにか?」 「なんでもない」 誰かが、意図的に「真実」をもみ消したのだ。 そして、そうする必要がある人物はあの状況で1人しかいない。 ゴードン大統領。奴に会う必要がある。 大統領だろうがなんだろうが関係ない。 あの時、機内で何が起こったのか? 腕づくでも「真実」を聞き出す。 「お客さん、もうすぐ着きますよ!」 タクシーが、ガーデンのエリアに差し掛かる。 海辺に映える臨海都市。 最新鋭のハイテクビル群がきらびやかな光を放っていた。 ガラス張りのビルと、ほどよく植えられた植養樹林が調和している。 緑の葉おい茂る並木のならんだショッピングエリアを、タクシーが走りぬける。 「お客さん、観光されるんならここらへんで降りた方がいいですよ? 買い物もできますし」 「いや、ゴライアス・ガーデンまでやってくれ」 やがて前方に新都庁舎「ゴライアス・ガーデン」が見えてきた。 ライトタワー、レフトタワー二つの高層ビルに挟まれ、真ん中にそれらの倍はあるであろう セントラルタワーがそびえる。 「電脳要塞」の異名を取るその巨大さは圧巻の一言に尽きた。 「成金国家の「バベルの塔」か‥‥」 レシェフは蔑むように言った。 |
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