〜炎の城〜

5 「Well come」


ショッピングエリアの洒落た街並みを抜け、雪絵の乗った車は無事
ゴライアス・ガーデンへとたどり着いた。
大きく見上げる雪絵。
「はぁ〜大きいですねぇ‥‥サンシャイン60よりも大きいかも‥‥」
「当然ですわ。『新都庁舎ゴライアス・ガーデン』ゴードン様の権力の象徴ですわ」
ミューが得意げに答える。
「あのう、それなんですけど‥‥『ゴライアス・ガーデン』って名前付ける時に
 議会とかで反対とか起きなかったんですか?」
「‥‥?」
雪絵の疑問はもっともだった。
公共の建物に個人名が入れられるのは現代ではあまり考えられない。
仮に日本で小竹総理が都庁舎に「小竹の園」などと名づけようとしたら
即不信任決議案ものだろう。
「‥‥何をおっしゃってますの?反対?なぜ?」
ミューは質問の意味がまるでわからないようだった。
「いや、だから‥‥公共の建物に個人の名前を入れるのに問題なかったんですか?」
「???‥‥ゴードン様のお力で建った建物なのですから別に不思議はないでしょう?」
「そ、そうですね‥‥」
雪絵は納得することにした。
人や国それぞれの考え方という物がある。きっとこの国の首相の位置づけやイメージは日本とはまた
違うのだろう。
しかし、ミューの態度にゴードンの絶対的権力の様なものを垣間見た雪絵は、なぜか薄ら寒いものを感じた。

階段を上り、セントラルタワーの玄関にさしかかる。
エントランスは西洋の宮殿のごとく派手な装飾が成されていた。
大理石の床に柱、壁を彩るレリーフ。中央上部には巨大なシャンデリアが飾られていた。
行政施設だが開放された区域であるらしく、他の観光客も行き来していた。
その中に、大統領補佐官キルマーがいた。
「ゴライアス・ガーデンへようこそおいでくださいました」
雪絵にうやうやしく礼をするキルマー。
「い、いえ、お、お招きいただいてありがとうございますっ!」
雪絵もぎこちなく礼をした。
「出迎えの件ですが、当方に手違いがありまして、間違ってミューごときをよこす事になって
 しまいました。まことに申し訳ありませぬ」
「そ、そうだったんですか‥‥(やっぱり間違いだったんだ‥‥)」
そっぽを向いているミュー。
「ヒラサカ様にはこのガーデンにご宿泊していただきます。どうぞ、ごゆるりとお過ごしに
 なってください。ご覧の通りセントラルタワー内部はちょっとした美術館にもなっております。
 散策されるのもよろしいですよ」
「はい、ありがとうございます」

『ぐ〜きゅるきゅる‥‥』

赤面する雪絵。
(うぅ‥‥そういえば今日は朝御飯ろくに食べてなかった‥‥)
「‥‥‥‥どうやらご昼食がまだのようですな。すぐにライトタワーのレストランにて用意させましょう。
 本来なら私が案内させていただきたい所なのですがあいにく大統領閣下のスケジュール調整の仕事がありますゆえ‥‥」
ミューの方をジロリと見る。
ため息をつくミュー。
「‥‥かしこまりましたわ」
「よいなミュー、ヒラサカ様にくれぐれも粗相のないようにな。
 本来ならグラス兄弟に任せたいところなのだがな。セントラルタワーの巡回にさえ行っていなければ‥‥」
「ホホ、みくびらないでくださいまし。私とて客人への接待の仕方くらい心得ておりますわ」
事も無げに答えるミュー。
え〜ウソだァ〜、と雪絵は声に出しそうなのをグッとこらえた。
「さ、ヒラサカ様、参りますわよ。ライトタワーの海辺の見えるレストランへご案内しますわ」
「は、はい‥‥」
2人を見送るキルマー。
「いってらっしゃいませ。夕食のお時間まで、部屋でお休みになられるも良し、
 あるいは外へ買い物に行かれるなら是非声をおかけくださいまし。
 護衛をお付けしますゆえ」
夕食には大統領閣下も同席しますゆえ、と言いそうになったがやめておいた。
ミューがまた嫉妬するかもしれなかったからだ。
「護衛って、そんな大げさな‥‥」
「いえいえヒラサカ様は大切なお客様ゆえ。ちなみにガーデン内部は
 万全の警備体制を行っておりますゆえ、どうぞご安心を」
「そ、そうですか‥‥わかりました‥‥」
今まで旅行等に行くと必ずと言っていいほど理不尽なトラブルにあってきた雪絵だけに、警備が万全、というのは心強かった。
(でもいくらなんでも、今回はこないだのハイジャックみたいな事件に巻き込まれる事はないよね‥‥‥‥)
そして玄関を出ようとした瞬間、ちょうど入ってきた人物とぶつかりそうになった。
「あ、ごめんなさ‥‥」
その大きな人影に雪絵は息を呑んだ。
全身を黒いスーツで包んだアラブ系の男と、その後ろについているインデイアンのような少年。
しかしなによりアラブ系の男の、眼帯まで付けた彫りの深い顔が怖かった。自分を見下ろす、鋭い目。
「あ、あ、ああの‥‥」
「‥‥失礼」
男はさっさと雪絵の横をすり抜けていってしまった。男に続いて少年も通り過ぎていく。
「ホ‥‥よかったぁ、すぐ怒る人でなくて‥‥」
「何をグズグズしてんのよヒラサカ様!?とっととついてきやがってくださいまし!」
すでに玄関前に出ていたミューが急かす。
(トホホ‥‥この人のがよっぽど怖い‥‥)
2人はライトタワーへと歩いていった。
「あ、あのぅ、ところでミューさん‥‥」
「なんですの?」

「今回の話、私、色んな国の人と言葉が通じてるんですけど‥‥?」
「‥‥何をおっしゃってますの?さっぱりわけがわかりませんわ」


 


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