〜炎の城〜

6 「Well come2」


「‥‥‥‥。」
キルマーはまだセントラルタワーの玄関にいた。
"気になる客"がやってきたからだ。
雪絵と入れ替わりに入ってきた2人組、アラブ系の男と‥‥少年。
むろんここは観光の名所であり、外国人が来ても格別珍しいことはない。
しかしキルマーは気になった。特に男の鋭い目、そして雰囲気。

ただの観光客ではない。
そう思った。

「‥‥‥‥。」
ディーを引き連れ、レシェフはエントランスを進む。
しかしその表情にはどこか腑に落ちないものがあった。
"気になる男"がいたからだ。
エントランス中央にただ立っている男、スーツに片メガネの老人。
ここの役員か何かであろうか。ここはそもそも行政施設なのだからスーツ姿の人間が何人いたって珍しいことはない。
老人の横を素通りしつつも、レシェフは気になった。
しかし振り返りたい気持ちは抑えた。
それにしてもあの老人の一見穏やかな目、しかし不気味な雰囲気。

ただの老人ではない。
そう思った。

「‥‥観光の方ですかな?」
ふと、誰を見るともなしに、キルマーが口を開いた。
「‥‥‥‥。」
その言葉にレシェフは足を止めた。
「?」
あわててディーも止まる。

エントランスには他にも何人も人がいる。キルマーの言葉が誰に向けられたものなのか、判別のしようがない。一見独り言のようにも見える。
しかし、レシェフは足を止めた。そして答えた。

「ええ‥‥観光です」
レシェフもどこを見るともなしに言った。

背中を向けた者同士の奇妙な会話。

「???」
ディーはその間で戸惑いながらも、とりあえず会話の相手とおぼしき老人を見た。
キルマーはまた口を開いた。
「失礼ですが‥‥その目は、どうかされましたか‥‥?」
気になる老人からの不躾な質問。
「‥‥‥‥。」
だがレシェフは嫌な顔をするでもなく、答えた。


「‥‥今まで‥‥いろいろありましたから‥‥」
「‥‥さようでございますか‥‥」


新都庁舎のエントランス。人々が忙しく行き交うなか、2人の間に沈黙が流れる。


「ごゆっくり‥‥お過ごしくださいませ」
結局沈黙を破ったのもキルマーだった。
「ああ‥‥」
レシェフは歩き出した。ディーも1テンポ遅れて歩き出した。
釈然としないのでレシェフに疑問をぶつける。
「あの人‥‥知り合い?」
「いや‥‥全然知らない人だ‥‥」

気にはなるが、余計な真似さえしてこなければ問題はあるまい。
レシェフはそう思った。

キルマーも同じように考えていた。
しかし、少しひっかかるものがあった。
男の顔に、見覚えがあったからだ。


 


第7話に続く
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