〜炎の城〜
7 「暦」
| 「私の資料に‥‥間違いがなければ‥‥」 セントラルタワー最上部にある「秘書室」。 キルマーはそこで一通の電話をかけていた。今ガーデンを警備巡回しているガードマンの1人にである。 「‥‥キルマーだ。すまんがひとつ、頼みを聞いてほしい‥‥いやなに、難しい事じゃない。 今から言う人物を探し出して『一言』言ってくれるだけでいいのだ‥‥」 ライトタワーにあるレストラン。 海を一望できるスペースを貸切にして、雪絵の席は確保されていた。 純白のテーブルクロスが敷かれた大きな丸いテーブルに1人分。 そこにチョコンと座る雪絵。 ズラリと並ぶボーイたち。 そしてそばに立っているミュー。 (‥‥‥‥。) なんか、すっげぇ気分が落ち着かない。 小市民か上流階級かでいえば、自分は間違いなく小市民の方に針が傾くと考えている雪絵にとって、この待遇は堅苦しい事この上なかった。 こんな状況で御飯なんて食べれたもんじゃない。 「あ、あのぅミューさん‥‥」 「ん?なにかしら?」 「ミューさんは一緒に食事しないんですか?」 「私は後で1人で別にいただくわ」 「それなら‥‥一緒に食べませんか?1人だと落ち着かなくて‥‥」 「はぁ?あなたは『客人』で私はこのガーデンで働く『使用人』よ。一緒に食事なんてできるわけ ないでしょ?」 「そ、そんなの、なんだか悪いですよ!」 「‥‥ふぅ、いい?あなたはお客様なんだから堂々としてればいいの。 私は今はお客様に御奉仕する立場。私、自分の仕事の領分はしっかりわきまえていましてよ」 火吐いたりサーベルで斬りかかったのも御奉仕だったのか、とツッコミたいのを抑え、雪絵は言った。 「それに私‥‥」 「?」 「その‥‥せっかく知り会えたわけですし、ミューさんとは使用人とか そういうのじゃなくて‥‥なんというか‥‥」 「なによ?」 「その‥‥『友達』‥‥みたいにお付き合いしたいというか‥‥」 「!?‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ぷっ!」 思わず吹きだすミュー。 「な、なにがおかしいんですか!?」 自分でも言ってて少し恥ずかしかったが、さすがに少しムッとした。 むこうにしてみれば『ズレた』発言だったかもしれないが、本心だったんだから仕方がない。 ミューは口を抑えて笑いをこらえている。苦笑でないのがせめてもの救いだ。 「ぷぷっ、友達、か‥‥‥‥のぼせあがんなよ、ぼーず」 「い、いやぼーずって‥‥!」 「ハハハわかったわかった、そんなに言うなら一緒に食事してやるよ」 ボーイに椅子を持ってこさせ、雪絵の隣に着く。 そして手をパンパンたたき、ボーイに注文した。 「おーし野郎ども、ジャンジャン持ってこい!」 (ミューさんて、いったい何者なんだろ‥‥? お嬢様みたいかと思ったら突然山賊の親分みたいになるし‥‥!) 「ほんとにキルマーさんも変わった注文するよなぁ‥‥」 ゴライアス・ガーデンを巡回するガードマンである彼は、とある人物を探していた。 黒づくめの、ターバンを巻いた眼帯の男とインディアン風の少年の二人連れ。 彼らを探し出して「一言」伝言を告げる。そして反応を見てほしいという。 まことに奇妙な頼みであったが、そうするだけでささやかなボーナスもくれるというので彼は快く引き受けた。 この広いガーデンで人探しをするのは容易ではなかったが、ついに25階、 大廊下のスペースで『尋ね人』を発見した。 確かに言われたとおりの容姿。彼ら以外にその場には誰もいなかった。 「お、いたいた!‥‥え〜と、たしかキルマーさんは‥‥」 *『ゆっくりとでいい‥‥懐に手を入れながら、一言つぶやいてくれるだけでいいんだ‥‥』 (あれは‥‥警備の人間か‥‥) 上の階へと目指す途中、レシェフは前方からガードマンが近づいてくるのを見た。 25F。セントラルタワーは地上77Fまであるという話だが、 一般人がエレベーターで来れるのはこの階が限界らしい。 数体の彫刻が並んだアーチ型の大廊下で、レシェフとディーはここからどうやって上へあがるか 思案しているところだった。 ガードマンはゆっくりと近づいてくる。 視線こそ合わさないが、チラリチラリとこちらを見ている。自分たちに注意を払っているのは確かだ。 (しかしここは一般人がいてもいいスペースのはず‥‥やりすごすか) 近づいてくるガードマンに不審な目を向けるディーをよそに、レシェフはそばの彫刻を眺めているフリをしていた。 そしてすれ違ったその瞬間、ガードマンは懐に手を入れ、つぶやいた。 「ようこそ カレンダー」 なんでだ? なんでこうなってるんだ? なんで俺持ち上げられてるわけ? ていうかなんでこいつ片手で俺を持ち上げられるわけ? なんでそんな怖い目するんだよぉ!? 痛い痛い痛い痛い!! 「なぜその名を知っている?」だって!? いいやわけわかんねぇよおぉぉぉーーーっ!!! 彼には3つの不運があった。 一つはその場に他に誰もいなかった事。 一つはキルマーが『尋ね人』を甘く認識していた事。 そして致命的な最後の一つは、懐に入れた手で拳銃をぬこうとしてしまった事。 「ギャアアアアア!!!!」 突如炎が巻き起こり、たちまちガードマンの全身が燃え上がった。 それを無造作に床に放り捨てるレシェフ。 辺りに煙と硫黄の匂いが散漫する。 「正体を嗅ぎつけられたか‥‥」 「どうするの?」 指示を仰ぐディー。 「そうだな、まずお前は‥‥」 『ジリリリリリリリリリリリリリリリ』 「!?」 警報が鳴り響く。煙と炎が火災報知センサーに反応したらしい。 「全く、これだからハイテクビルは‥‥」 たちまち複数のガードマンが駆けつけてきた。もうごまかしは効かない。 「‥‥ツイてない」 レシェフはため息をついた。 |
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