〜炎の城〜

8 「グラス兄弟」


「ディーよ」
ディーは相方の顔を見上げた。
「廊下をぬけた所に非常階段のドアがあった。そこから上へ行け。
 ここは私が囮になる」
「上へって‥‥なぜ?」
「‥‥決まってるだろう?ゴードン大統領に会い、真実を確かめてくるんだ」
「僕が‥‥?」
ディーは躊躇した。
「真実を確かめて‥‥それからどうすればいいの?」
師父でもあるレシェフは言った。

「自分で考えろ」

「ディー、お前は年はいくつになった?」
「え‥‥16だけど‥‥」
「立派な大人だな。自分で考えて行動しても良い頃だ」
ディーは迷った。
ゴードンはラバンダを滅ぼした悪党でもある。
「それは‥‥‥‥必要と判断したなら、『暗殺』しろ、という事なの?」
自分を暗殺者に育て上げた張本人でもあるレシェフは言った。

「そう判断したならそうしろ」

「ディーよ、もうお前は甘えの許される人間ではない‥‥行け」
「‥‥はい」


ガードマンたちは侵入者を囲んだ。
死人が出てる以上、容赦はできない。
体格的には負けていない。
いや、むしろこちら全員が不審者より大きいくらいだ。
さらに10対1。負ける要素はない。

しかしガードマン側は圧倒されていた。
ターバンの男が数メートル飛び上がったかと思うとたちまち3、4人を踏みつけた。
首に異常をきたしダウンしていくガードマン。
彼らの頭上をターバンの長い尾をひるがえし、八双跳びのごとく空中を舞って着地したついでに回し蹴りで2人を駆逐する。
一気に人数は半減。
慌てて拳銃をぬいている間にさらに1人。
残ったガードマンのうち1人はその場から離脱した。応援を呼びにいったのだろう。
残る数人のガードマンはターバンの男にむかい引き金を引‥‥けない。
狙いを定め、引き金に力をこめる前に次々となぎ倒されていった。
その場から少年が1人消えていたことなど、ガードマンたちは知るよしもなかった。


ディーは1人、非常階段を駆け上る。
セントラルタワー最上階、ゴードン大統領を目指して。

"自分で考えろ"

"そう判断したならそうしろ。もうお前は甘えの許される人間ではない"

これは単なる命令ではなく、レシェフが自分に課した試練なのかもしれない、とも思った。
ディーは階段を駆け上る。
自分がこれから何を成すのかわからないまま。漠然とした不安を抱えたまま。


ガードマン全員を戦闘不能にしたレシェフ。
「もう終わりか。これはディーを先に行かせたのは早計だったかもしれんな‥‥」

「素晴らしい」「お手前で」

「!?」
レシェフが振り向くとそこには2人の男が並んで立っていた。
2人ともスーツにサングラスといういでたち。年は20代後半くらいだろうか。
細い体格から髪型、顔かたちまでもが瓜二つであった。
ただ一方は黒髪に黒いサングラス、黒いスーツに対し、
もう一方は髪、サングラス、スーツの色ともに赤で統一されていた。
「私はコードネーム『ブラックグラス』、ガーデンの護衛隊『ガーディアンズ』の一員です」
「私はコードネーム『レッドグラス』、同じく『ガーディアンズ』の一員です」
肩をすくめるレシェフ。
「黒メガネがブラックグラス、赤メガネがレッドグラスか。ひねりがないな」
「わかりやすさが」「モットーですから」
「我らグラス兄弟が」「お相手いたします」
「あと言うまでもなく」「双子です」
わざとらしいまでに台詞を分けて放つ2人。
呆れ顔のレシェフ。
「随分と変な奴がでてきたな‥‥まあいい、ここに残った甲斐があったというものだ」
グラス兄弟が拳法の構えを取る。腰を沈めユラリと構えるその姿は2人とも寸分違わない。
「おとなしくして」「いただきます」
(素手か?)
2人同時に一気に間合いを詰め襲い掛かかってきた。
全く同じタイミングの2つの拳、2つの前蹴りがレシェフを襲う。
レシェフの二の腕がそれらを次々と裁く。
(手数は多いが‥‥とらえられんほどではないな)
「お楽しみは」「これからでございます」
レッドグラスがレシェフの両肩を掴み、ジャンプして軸移動する。
挟まれる形になった。
「ほぉ、文字通りの挟み撃ちか」
「寸分たがわぬ我らの動き」「見切れますかな?」
2人同時に殴りかかる。
(同じタイミング、容易に見切れる‥‥!)
レシェフが両側に腕を伸ばす。
右腕がレッドグラスの拳を掴む。
しかし左腕は空を切った。
「!?」
1テンポ遅れて放ったブラックグラスの掌底がレシェフの脇腹にヒットした。
「ぐッ‥‥!」
追撃をさける為、前転で素早く間合いを離すレシェフ。
それを見据えるグラス兄弟。2人そろって肩をすくめる。
「タイミングくらいズラすに」「決まってるでしょ」
「アンタひょっとして」「バッカじゃないの?」


 


第9話に続く
第7話に戻る
図書館に戻る