〜炎の城〜
10「レシェフvsミュー」
| セントラルタワー30Fから専用エレベーターで25Fへと降りるミューと雪絵。 「な、なんだか怖いな‥‥‥」 「心配ございませんわ。不心得者が現れるのはままある事。ガードマンで手に負えない時はたいてい私が「イワして」さしあげてるんですの」 「そ、そうなんですか‥‥‥」 (なんだかテレビの「警視庁24時」とかみたいだな‥‥‥) そして25Fにたどり着き、エレベーターの扉が開いた。 外へ出ると、目の前に広がる大廊下に累々と横たわる人々。方々で燃え上がる火。 阿鼻叫喚の地獄絵図。 そして中央に立つ黒衣の男、レシェフは2人に鋭い視線を送ってきた。 「次から次へと‥‥‥今度は貴様らか」 (今回もきたァァーーーッ!!!) 雪絵はとりあえず警視庁24時どころではない事を悟った。 素早くその場の状況を見定めるミュー。足元に倒れているグラス兄弟を見る。 「なんだあんたたち、やられちゃったんだ?」 「ミ、ミュー様‥‥‥」「申し訳ございません‥‥‥」 そして黒衣の男を見据え、笑みを浮かべる。 「グラス兄弟まで片付けるとは‥‥‥なかなかの腕前ですわね‥‥‥」 レシェフも笑みで応える。 「これはこれは随分と可愛らしい‥‥‥お嬢さんたちもガーディアンズとやらの?」 「いかにも」 私はちがーう、と雪絵はそばの彫刻に身を隠しながら心の中で叫んだ。 「‥‥‥後ろのお嬢さんは一緒に戦わないのかね?」 「(やっぱ気づいてるーっ!)え?あ!え?‥‥‥いや、私は、その‥‥‥ け、見学ということでどうかひとつッ!」 「?」 「まずは私と踊ってくださるかしら?『ゴライアス・ガーデンの守護天使』こと "エスパーダ"ミューがお相手いたしますわ」 ミューがエスパーダ(闘牛士用サーベル)の切っ先を侵入者にむける。 「‥‥‥喜んで」 レシェフは胸にさした薔薇を手に取り、一礼した。 「フッフッフ‥‥‥」「ターバン野郎‥‥‥」 「お前の命運も‥‥‥」「ここまでだ‥‥‥」 レシェフは先ほど倒した敵の方をチラリと見た。 ミューの足元に横たわっていた黒焦げのグラス兄弟が不敵な笑いを浮かべる。 「この方こそはガイアが誇る最終兵器彼女ッ!」「恐怖の切り裂き魔神ミュー様だ!」 「またの名をサーベル暴君マグマ星人!」「必殺マグマサーベルに敵はなし!」 「マ・グ・マ!」「マ・グ・マ!」「マ・グ・マ!」「マ・グ・マ!」 「ッシャァァァーーーーーーーッ!!!」 ミューの咆哮。 2度踵が振り下ろされる。 何かが砕ける音が2回。 「ミ、ミュー様ぁぁ‥‥‥」「な、なぜぇ‥‥‥!?」 果てるグラス兄弟。 「てめぇら黙って聞いてりゃ好き放題言いやがって‥‥‥!」 「なかなかの人気ぶりですな‥‥‥」 涼しい顔のレシェフ。 「!‥‥‥いいえ、大した事ございませんわ‥‥‥」 気を取り直し、サーベルを構えた。 「ゴードン様の花園を荒らす不貞の輩‥‥‥その首、ブチはねてさしあげますわ‥‥‥☆」 指に挟んだ薔薇をかざすレシェフ。 「いいだろう‥‥‥かかってこい、マグマ星人とやら」 「マグマ星人じゃねぇ!」 「25F大廊下で‥‥‥『戦闘』だと!?」 ガードマンからの報告を聞いたキルマーは愕然とした。 *『はい‥‥信じられない強さで‥‥‥警察に通報いたしますか!?』 「いや‥‥‥通報するのは少し待て‥‥‥」 謎に包まれた奴らの"組織"。その数少ない資料としてキルマーが持っていたのがレシェフの写真であった。 (探りを入れるだけのつもりが‥‥‥これほど攻撃的な連中だったとは!) まだ彼らが何の目的で来たのかが全くわからない。 場所が場所である。下手に公の機関が介入してくれば『痛い腹』を探られ何が露呈するかわからない。 なるべく内々のうちに解決したかった。 「よいな?‥‥‥通報はするな‥‥‥」 ミューは身にまとわりつかせていた赤い帯を縦横無尽に振り回す。 そうして死角を作り出し、サーベルを構えた。 「この状態からの剣撃、かわせるかしら!?」 そしてレシェフめがけ、一直線に突いた。 「ハァッ!」 大きく一歩踏み込み、放った突き。 それをレシェフは、指に挟んでいた「薔薇」で受け止めた。 トゲが一本、落ちる。 「な!?てめぇ‥‥‥おちょくってんのか?」 ミューは一歩下がり、今度は連続して突きを放った。 「蜂の巣になりやがれぇー!」 鋭い突きの雨あられ。 しかしレシェフは一歩も退かず、そのことごとくを薔薇で受け止めきった。 「くッ‥‥‥その薔薇、いったい何でできてやがる?」 「別に、これは普通の薔薇だ‥‥‥まぁそれだけ君の剣の腕が『未熟』という事かな?」 「!?」 トサカにきたミューがさらに攻撃しようとした瞬間、レシェフは大きく跳躍した。 大廊下に置かれている彫刻の一つに身を隠す。 そして頭に巻いたターバンを解いた。 「あン?なんのつもりだ?」 『お稽古事の剣術しか知らぬ姫君に、『真の戦闘』というものを教えてやる!』 言うが速いか黒い帯が伸びてきた。 彫刻の合間を縫って蛇のごとくミューめがけ襲い掛かってくる。 「おぉっと!?」 すんででよけるミュー。ついでにターバンの端も掴んだ。 「へッ、あめーんだよ。チンケな技使いやがって‥‥‥」 次の瞬間、黒い帯の軌道上を炎が伝った。 「!?」 それは当然ターバンの端を持っていたミューに直撃した。 「うおあぁぁぁああ!?」 燃え盛る炎と悲鳴に、手ごたえありと踏んだレシェフ。 『我が能力の真骨頂、『クリムゾンライン』。変幻自在の炎、見切れぬよ』 |
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