〜炎の城〜
11 「"ミュー"」
| 「す、すんげーヤバいですよこれは‥‥‥!」 彫刻の一つに身を隠しながら雪絵は戦況を見守っていた。 次々と繰り出されるクリムゾンラインと称する炎の帯に翻弄されているミュー。 炎の帯は時々雪絵の頭上も通り、その都度彼女はビビっていた。 とても逃げるに逃げれない状況。 「いったい‥‥‥なんだってんだ?」 防戦一方のミュー。彫刻に身を隠しながらの遠隔攻撃に手も足も出ない。 蛇のごとく曲がりくねる炎のラインは横からだけではなく上からも襲い来る。 「そもそも‥‥‥この炎は何なんだ‥‥‥?」 最初に直撃した炎のダメージは深刻だった。 続く攻撃は、黒い帯の動きから予測し、なんとかかわすのが精一杯だった。 「あ、熱い‥‥‥!」 絶え間なく続く炎に、周囲の温度は急上昇。 もはや思考もままならなくなってきた。 「こっのッ‥‥‥クソがァァァーーーーッ!!!」 怒号と共に地団駄を踏むミュー。 大廊下のフロアが揺れる。 「この卑怯もんがァ!コソコソ隠れてねぇで正々堂々出てきて勝負しろやぁ!!」 「‥‥‥ふぅ」 ため息をつくレシェフ。そして素直に彫刻の陰から出た。 「己が不利になってから卑怯呼ばわりを始めるなど愚の骨頂だな。 そこまで言うなら、今度は正面から相手をしてやろう」 「ヘイッ!」 ミューが指をパチンと鳴らした。 「イェッ」「サー!」 「!?」 バク転でレシェフに接近する二つの影。 「グラァース!」「ローック!」 両腕をとらえられたレシェフ。 グラス兄弟に両側から動きを止められていた。 「貴様ら‥‥‥まだ息があったか?」 「さぁミュー様ぁ!」「やっちゃってくださいッ!」 「この卑怯者どもが‥‥‥!」 「自分が不利になってから卑怯呼ばわりを始めるたぁ愚の骨頂だなァ、あ?」 サーベルを構えるミュー。狙いは、心臓。 レシェフが蔑みの目で見る。 「‥‥‥ミューとやら、こんな勝ち方で満足か?」 「大・満・足だね!ゴードン様のお役に立てるなら‥‥‥どんな汚い手だって使ってやるよ」 「この痴れ者どもが‥‥‥!」 初めてレシェフが怒りをあらわにした。 とたんにグラス兄弟を炎が包み込む。 人体自然発火。 「ギャアアアア!?」「またぁぁぁ!?」 思わず腕を離す2人。レシェフは自由になった。 「痛い仕置きが必要だな。特に女、貴様にな!」 「あ?死にくされェ!」 ミューが突きを放ったタイミングに会わせ、レシェフは腕を振り上げた。 「!?」 足元から巻き起こった炎の壁が、ミューを吹き飛ばした。。 「うぁぁぁぁ!?」 燃え移った炎を振り払わんとのたうち回る。 その体を確実に炎は蝕んでいった。 その様子を平然に見下ろすレシェフ。 「ハァ、ハァ‥‥‥て‥‥‥め‥‥‥ぇ‥‥‥」 炎は払ったものの全身にダメージを負ったミューはやがて、動かなくなった。 勝負あった。レシェフはそう判断した。 「『カーマインスプラッシュ』‥‥‥しょせんは金と権力にまみれた、小物政治家の飼い犬か」 ミューがムクリ、と起き上がった。 「ん?」 「誰が‥‥‥」 「?」 「誰が‥‥‥『小物政治家』だって?」 体をまとう赤い帯から、もう一本のサーベルを取り出した。二刀流。 2本のサーベルをダラリと下げる。 「はわわわわわわ‥‥‥!」 雪絵は戦々恐々とその様子を見ていた。そしてさっきにも増して怯えていた。 2本のサーベルよりも、炎の帯よりも、ミューのその顔が怖かった。 雪絵が何度も目にした、怒った時の表情とは違った静かな表情。 しかし目だけが一線を画していた。 本物の殺気を帯びた目が。 「‥‥‥取り消せ」 「何をだ?」 「今の言葉‥‥‥‥‥‥取り消せッつったんだァァァァァァーーーッ!!!!!」 2本のサーベルを手に猛突進するミュー。 「死ねやァァァッ!」 頚動脈めがけ振り下ろされた2つの刃。 「!‥‥‥」 レシェフはそれを、両の手で掴んで止めた。 ふんばった両足が、少し後退する。 「野郎ォォ‥‥‥許さねぇ‥‥‥あのお方を馬鹿にする事だけは許さねェェ!!」 にらみ合う両者。 「フン!」 レシェフはミューの攻撃を弾き、拳を固めた。 「‥‥‥弱い」 その拳に炎が巻き起こる。 「散れ」 炎をまとった拳がミューの鳩尾にクリーン・ヒットした。 一直線に吹っ飛ぶミュー。そして壁に激突した。 「これで、勝負あったな。少々時間をかけ過ぎたか‥‥‥先を急がねば」 レシェフは進む事にした。 床に崩れ落ちるミュー。 「ち‥‥‥畜生ぉぉ‥‥‥」 立ち去っていく敵の背中。 「まだ‥‥‥負けてねぇ‥‥‥負けてねぇぞ‥‥‥」 だって体がまだ動くんだからな‥‥‥。 「てめぇ‥‥も‥‥‥道連れだ‥‥‥」 手に持ったサーベルの感触を確かめる。 槍投げの要領だ‥‥‥キル爺に教わった通りの‥‥‥ 「!?」 レシェフは身を翻し、飛んできたサーベルを回避した。 壁にサーベルが刺さり、ビィンとしなる。 「次々と‥‥‥見下げ果てたマネを‥‥‥!」 「ゴー‥‥‥ドン‥‥‥様‥‥‥」 倒れ伏すミューの元へ、サーベルを手にしたレシェフが戻ってきた。 「‥‥‥なにかと言えばゴードンゴードンと‥‥‥ お前はゴードンに死ねと言われたら死ぬのか!?」 「死ぬさ」 ミューは即答した。 |
| 閑話 「"ORGEL"」Tに続く |
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