〜炎の城〜
14 「尋問」
| 「カレンダー‥‥‥だと?」 『そうだ。世界の裏で暗躍するテロ組織だ』 「そんな奴らに‥‥‥これ以上好き勝手させるか‥‥‥痛デデ!」 ミューは立とうとしたがダメージは甚大。激痛が全身に走る。 『ミュー、無理はするな。後は私がやる』 「!‥‥‥わかった」 素直に従うとミューは携帯を切った。 「あの‥‥‥どういう状況なんですか?」 雪絵が不安げに尋ねる。 「奴らは一体‥‥‥!?」「どうかご指示を!」 「‥‥‥キル爺が動くそうだ」 「!‥‥‥なるほど。ではとりあえず」「医療班をここへ呼び寄せましょう」 携帯で連絡を取り始めるレッドグラス。 何をすればいいのかわからず、ただ立っている雪絵。 「あのぅ、私はどうすれば?」 「ん‥‥‥いや、もう何もしなくていいよ。あんたも私も」 ふと、ブラックグラスが口を開いた。 「ところでミュー様、この方は‥‥‥」 「ん?ああ、ユキエ・ヒラサカ、様。日本からの客人だ。知ってるだろ?」 「ああなるほど、そういえば新聞でお顔を拝見したことがあります‥‥‥ ユキエ・ヒラサカ様ですか‥‥‥」 まじまじと雪絵を見つめる。 (な、なんなんだろこの人‥‥‥?) ミューは体を休める事にした。 (キル爺が動く‥‥‥) もう大丈夫だ。 レシェフは非常階段のそばにあったエレベーターを使った。 もし電源を落とされたり待ち伏せされても自分で対処できる自信があった。 パネルを見る。このエレベーターは60Fまで上がれるようだ。 「60F」のボタンを押し、一気に上がる。 「すんなり最上階へは行けないしくみになっているようだな‥‥‥ ディーはうまくやっているだろうか‥‥‥」 やや振動した後、扉が開くと、そこは大議会場だった。 エレベーターから出て、部屋全体を見渡す。 段々状に並んだテーブル。そしてその中心に立つ1人の男。 (あれは、ロビーの‥‥‥) 玄関口ですれ違った老人が立っていた。 (‥‥‥‥‥‥。) あの老人が只者ではないのはわかっている。 向こうもこちらの正体はもう知っているだろう。 あの時は知らぬ者同士だったが今は、敵。 (今度はすれ違うだけではすむまい) 老人は自分をまっすぐに見ていた。 レシェフも老人にむかい、まっすぐに歩を進めた。 ふと、レシェフは顔の前に手をやった。 その人差し指と中指の間に、一枚の名刺が挟まれていた。 「良い目をお持ちで」 老人はつぶやいた。 レシェフは名刺を見た。『大統領補佐官キルマー・バレンタイン』の名が記されていた。 なんの変哲もない、紙。 これをあの老人は手で受け止めなければ顔に刺さっていたであろう勢いで投げつけたのか? もっとも横にして投げつけられた、ほとんど"線"と変わらぬそれを受け止めたレシェフも 只者ではなかったが。 「‥‥‥‥‥‥。」 「‥‥‥‥‥‥。」 もう、始まっていた。 「ゴードン大統領‥‥‥!」 ディーは、サロンのソファでくつろいでいるその人物をよく眺めた。 間違いない。ゴードンだ。 しかし当の本人は、ディーの存在に気づいていないかのようだった。 その目はどこを見るでもなく、ただ風に当たっているかのように見えた。 確かにサロンは広いが、入室者に気づかないほどではない。 頭に羽飾りを付け、肩にショールをまとった目立つ装束のディーに気づかないわけがない。 しかしゴードンに、奇妙な侵入者を気にする様子はない。 怯えた様子も、怒った様子も見せない。 あまりの無反応ぶりにディーは自分から近づいていった。 座っているゴードンのそばまで近づく。 「‥‥‥あなたはゴードン大統領ですか?」 ディーは尋ねた。なぜか敬語を使ってしまった。 「そうだ」 意外にすぐ答えが返ってきた。しかしディーを見ようともしない。 「こんな所にいたなんて‥‥‥てっきり最上階でふんぞり返ってるかと‥‥‥」 「‥‥‥リンカーンは合衆国大統領に就任した後も、 ホワイトハウスの玄関で自分の靴を磨いていたそうだ。 私がサロンで休んでいるくらい、何の不思議もない」 言いつつ、ゴードンの手がテーブルの上のリモコンに伸びた。 「!?」 ディーは構えた。 ゴードンがリモコンのスイッチを入れると、壁に掛けてあった超薄型の液晶テレビが点いた。 47インチの大画面にメジャーリーグの中継が映し出される。 「‥‥‥?」 「最初は額縁かと思ったよ。違うんだ。テレビなんだ。薄いだろ? すごい時代になったもんだ」 「‥‥‥。」 「スイッチを入れるだけでいいんだ。ただそれだけの事なんだ。 しかしまずそれが何なのかわからなければ、 何をしたらいいのかもわからない‥‥‥はた目には実に滑稽なものだ」 ゴードンは野球中継に見入っていた。 「‥‥‥。」 ディーは戸惑った。 自分はどうすればいいんだ? ディーは自分の使命を思い出した。 自分の役割はゴードン大統領に会い、ガイア大統領機ハイジャック事件の「真実」を知る事。 (でも‥‥‥どうやって聞き出せばいいんだ?) 「不審者」である自分たちが侵入している事を、この男は知らないのか? ディーは、なみいるガードマンたちを押しのけ、自分の悪事を暴かれまいと猛抵抗してくる ゴードンをねじ伏せ、話を聞きだす事になると思っていた。 しかし当の本人は1人の護衛もつけず、自分に無防備な姿をさらしている。 (わからない‥‥‥!) 焦ったディーは思い切って、尋ねた。 「ゴードン大統領‥‥‥日本で起こったガイア大統領機ハイジャック事件の真相が 知りたいです」 言ってからしまった!、と思った。 もし何かを隠蔽しているのなら、そんな事を馬鹿正直に話すわけがない。 なによりも今の質問で、自分がかなり怪しい人物だと思われたはずだ。 ひょっとしたらサロンに迷い込んだ、ただの一般観光客だと思われてたかもしれないのに。 「‥‥‥。」 ゴードンの表情に何の変化もなかった。 「あ、あの‥‥‥」 「君は誰だ?」 いきなりゴードンが尋ねてきた。 「君はあの事件の事を知る必要がある人間なのかね‥‥‥?」 「‥‥‥!」 緊張?それとも‥‥‥恐怖? 急に息苦しくなった。 しかしここが正念場だと思った。 レシェフは言った。「自分で考えろ」と。 ディーは考えた。 少なくともこのビルにはあのガードマンを始め『暦』の事を知っている人間がいる。 なら、おそらくここのボスでもあるゴードンも知っていてもおかしくない。 自分が『暦』の人間だとバレるのは時間の問題だ。 どうするか‥‥‥? 「僕は『暦』の幹部、ディーという者です」 ディーは自分の気持ちに従い、ありのままを話す事にした。 「‥‥‥‥‥‥。」 「あなたを襲ったグループにハイジャックのお膳立てをしたのは『暦』です。 あなたはあのハイジャック事件で何かを隠している。真実を話してください。 もし拒否すれば‥‥‥実力行使に出ます」 ゴードンはただ野球中継を眺めている。 失敗したか? ひょっとしたらゴードンは『暦』の事など知らないんじゃないのか? そもそも細腕の子供が1人、実力行使だの何だの言ってもまるで説得力がない。 しかし現在の一国の首相ならテロ組織『暦』の名を全く知らないはずがない。 無反応のゴードンに対し、ディーはさらに食い下がった。 「あの時、大統領機の中で、ハイジャック犯と何があったのですか!?」 ゴードンはディーの方を見もせず、答えた。 「殺したよ。私が全員殺した」 |
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