〜炎の城〜

15 「投擲」


レシェフは横に移動し、キルマーと平行に距離を保った。
段々状のテーブルで機敏な動きに制約を受ける。
キルマーも同じ様に距離を取りながら走る。が、
「ホッ」
何かを投げつけてきた。ボールペンだ。
ターバンにバシッと当たる。思ったより強い当たりだった。
(いい肩をしているな‥‥‥)
続いてキルマーはテーブルの上にあった金属製の灰皿を投げてきた。
「はっ、ほっ、よっ、と」
立て続けに1つ、2つ、3つ。
「!‥‥‥」
レシェフは走りつつ顔に飛んできたそれらを全て手で払い落とした。そして少し足を速めた。
キルマーは相変わらず距離を取りながら、
今度は議会席にあったワイヤレスマイクを外し、アンダースローで投げつけてきた。
「フン」
これも腕で防御した。
(さっきから‥‥‥なにかがおかしい‥‥‥)
今度は壁に掛けてあった額縁を手にするキルマー。
ノートサイズの小さなそれを掴むと、フリスビーの様にして投げてきた。
(‥‥‥)
レシェフは素早く身を翻した。
が、額縁はレシェフの額に命中した。
(!‥‥‥)
レシェフは異変に気づいた。


‥‥‥避けられない?


「なんでもない芸も、長く続けていると冴え渡ってくるものです。
 なんとなく、わかってしまうのですよ。標的がどう動くのか‥‥‥」
レシェフを見据え、キルマーは言った。
「次は、これで参ります」
その両手には忍者が使う『手裏剣』が握られていた。
「ハッ!」
十字のそれが、鋭い光を放ち飛んできた。
「ホッ!」
続いてもう一つ。
2つの手裏剣がレシェフを襲う。
「私を見くびるなよ‥‥‥!」
両手でそれぞれの手裏剣を指で挟み取った。
もし掴み損ねていれば、左目と心臓に当たっていた。
「それっ!」
「!?」
レシェフは素早く手裏剣を捨て、自分にまっすぐ飛んできたクナイ型の手裏剣を掴み取った。
槍の穂先状のそれを握った手から、血がにじむ。
「では次、これを使います」
キルマーの指にさっきより一回り小さい、ドス黒い手裏剣が挟まれていた。
「ちなみにこれには猛毒が塗られておりますゆえ、お気をつけくださいまし」
言うが速いか無造作に投げつけた。
「!!‥‥‥」
レシェフは手を大きく振り上げた。
沸き立つ炎。
突き上げる炎の壁、カーマインスプラッシュが手裏剣を燃やし落とした。
それを見据えるキルマー。
「ふむ。当然そうするでしょうな」
見返すレシェフ。その手に炎が宿る。
「私の炎を見て‥‥‥驚かないのだな」
「‥‥‥裏の世界を深く知れば知るほど、そういう物には慣れてくるものでございます。
 ときに‥‥‥」
「?」
「私はすでに名刺を差し上げたはずですが‥‥‥?」
「ん?ああ‥‥‥失礼した」
レシェフは炎の宿った手を前に掲げた。

「私の名はレシェフ。『暦』メンバー、"炎を運ぶ"レシェフだ」

「‥‥‥レシェフ殿、あなたは見たところなかなかの使い手。
 そのあなたがここに一体どういったご用件で?」
「大統領閣下にお目通り願いたい。先の日本で起こったハイジャック事件の真相を、
 知りたいのだ」
「‥‥‥お断りいたします。どうしてもとおっしゃられるならば‥‥‥」
憮然とした表情のキルマーに、レシェフは笑みを浮かべた。
「ああわかっている。キルマー老、あなたを消しズミにして進むまで」
「ふむ‥‥‥あと、下でお会いした時はお連れ様がいた様ですが‥‥‥?」
「はぐれた。もしみつけたら私の所まで連れてきてほしい」
レシェフは平然と言った。
「了解しました」
キルマーもさらりと流した。
そして、困った風な顔でレシェフを見やった。
「レシェフ殿‥‥‥」
「なにかな?」
「この議会場を闘いの場に選んだのはこの私でございます。
 私はここを熟知しておりますが、あなたは初めてでございます」
「?」
「このビルの設計には私もいくらか関与させていただいております。
 この部屋のインテリアも、闘いの場となった時の事も想定して私めが整えたものでございます」
「ほう‥‥‥」
周囲をみやる。
壁に立てかけてあるアンティークな槍、盾などはもちろん、
テーブルの上に飾られた花瓶までもが凶器に見えてきた。
「そして私は部下からあなたの戦い方の情報を得ておりますが、
 あなたは私の戦い方をほとんど知らない」
「‥‥‥何が言いたいのかな、キルマー老?」
「ハッキリ申し上げますと‥‥‥あなたは圧倒的に不利でございます」


 


第16話に続く
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