〜炎の城〜
16 「尋問2」
| 「いや全員、というのは正確ではないな。確か1人‥‥‥手榴弾で自爆したのがいたな」 ディーは、ただ野球中継を眺めているその男を見ていた。 心臓が高鳴っているのを感じた。 「殺した」‥‥‥そう言ったのか? 大の男5人を? 1人で? 確かにゴードンは人一倍体格がいい。 しかし、一政治家が銃を持った複数のテロリストたちとどう戦ったんだ? ひょっとしたら僕が子供だと思って、ふざけてるんじゃないか? いろいろ難癖を付けてみたが、本当はディーにはわかっていた。 この人は本当の事を言っている。 なぜかそう思った。 自分の顔も見ず、淡々と言った台詞であったが、なぜかこの上ない真実味を感じた。 窓からさしこむ日の光がゴードンを照らす。 その表情は、陰になってて少し見えにくかった。 「随分あっさりと白状するんですね‥‥‥」 「君が自分の事を正直に話したから、私もそうしたまでだ‥‥‥さて」 「!?」 「用事は済んだろう。帰りたまえ」 ゴードンはテレビを見たまま、言った。 「!‥‥‥」 確かに用事は‥‥‥済んでしまった。 ディーは「真実」を知った。 どうしよう。 もう帰っていいのか?‥‥‥いいわけがない。 ただゴードンから聞いた答えを持って帰っただけでは何の説得力もない。 これで終わらせたらそれこそ子供の使いだ。 レシェフは絶対納得しないだろう。 ディーは質問を続けた。 「銃を持った男たちをどうやって‥‥‥殺したんですか?」 「静かに」 「?」 「今いいところだ‥‥‥」 テレビの野球の試合はちょうど6回裏2アウト満塁の場面だった。 「一見大ピンチだが‥‥‥大丈夫だな。あのピッチャーは危機になればなるほど 実力を発揮するタチだ。おまけに相手バッターは経験の浅いルーキー。 あっさり三振をモノにするだろうな」 ピッチャーの気合の入った投球。‥‥‥1ストライク目をもぎ取った。 「‥‥‥。」 ゴードンはそれ以上何も言わなかった。どうやらディーの質問に答える気はないらしい。 何もしない。何も言わない。しかし明らかに今は、ゴードンのペースだった。 (実力行使に出るしかない‥‥‥!) ディーはソファに腰掛けているゴードンの背後にゆっくりと回った。 ゴードンは無反応。無防備な後頭部と肩がディーの目の前にあった。 ディーは自分の手を見た。 この体に秘められた"氷"の力。 血液をも凝固させるこの力を目の当たりにすれば、きっとゴードンも素直になるだろう。 ちょっとだけだ。 ちょっとだけ体を凍てつかせて驚かすだけだ。 ディーの両手がゴードンの両肩に触れようとしたその時。 「肩を冷やすといいそうだ」 ディーの手が止まった。 テレビから歓声が挙がる。2ストライク目が決まったらしい。 「ピッチャーとかね、冷却スプレーとかでよく冷やすそうだ。 だが昔は違った。逆に暖かくするのが正しいとされていた。 昔、日本のプロ野球選手で‥‥‥名前は忘れてしまったが、 彼は夏場でも肩を冷やすまいと厚いセーターを着ていたそうだ。勿体無い話だ。 だが、それを咎める資格は誰にもないだろうな‥‥‥」 「‥‥‥。」 「人は皆、その時その時で真剣に正しいと思う選択をしているのだからな‥‥‥ 君も観ていくかね?」 ゴードンが隣のソファを指差した。 「‥‥‥はい」 ディーはなぜか素直に従ってしまった。 (僕は‥‥‥どうすればいいんだ?) 悩むディー。そうしてるうちにピッチャーが3ストライク目を勝ち取った。 危機を脱したようだ。 しかし、まだ6回目が終わった所。試合はまだ続く。 |
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