〜炎の城〜

17 「恋でもしようよ」


セントラルタワー内にある医療スペース。
次々と担架で運ばれてくるガードマンたちで、そこは修羅場と化していた。
ミューもかなりの負傷を追っており、ベッドに横になって、寝ていた。
そばには雪絵もついていた。
「えらい事になっちゃったなぁ‥‥‥どうして私が行く先々でこういう事件が
 起こるんだろぉ‥‥‥」
ふと自分の携帯を見る。
外国なので当然圏外。
「こんな時、ひーちゃんがいてくれたらなぁ‥‥‥」

その様子を遠くから見守るグラス兄弟。
彼らも同じくダメージを受けていたが、手当ての後は起きて歩けるくらいには
回復していた。
「弟よ‥‥‥俺は決心した」
「どうした、兄者?」
「俺は‥‥‥あの子と結婚する!」
「ミュー様と!?」
弟の胸ぐらを掴むブラックグラス。
「馬鹿かてめェは!?
 あんな女ジェイソン嫁にもらった日にゃあ毎日が13日の金曜日だろがァーッ!
 ユキエ・ヒラサカ嬢に決まってんだろ!」
「え、あのお客人と!?‥‥‥しかしまたなんで?」
「あのにっくきターバン野郎にミュー様が殺されそうになった時、
 旅先で知り会っただけの間柄にもかかわらず、我が身を振り返らずに
 身を呈して必死に守り抜いたあの姿に俺は‥‥‥いたく感動した!」
「結局シャンデリア落としちゃったけどね」
「(無視)そんなあの子に俺は‥‥‥惚れたァッ!」
「あーあー、また兄者の病気が始まっちゃったよ。兄者てばちょっと可愛くて
 けなげな女の子にすーぐ惚れる性分だからなぁ。やめときなって。
 うまくいった試しないじゃん」
「今度こそうまくやるさ!
 ‥‥‥しかしこのあふれる思い、どう伝えればいいのだ‥‥‥!」
「あのさぁ兄者‥‥‥」
「なんだ?」
「1人で盛り上がってる所悪いんだけどさぁ、俺の見たところあの子‥‥‥
 彼氏いると思うよ」
「な、何ぃ!?んなわけあるかぁ!?あの子まだ高校生だぞぉ!?」
「高校生なら十分アリでしょ。あの子可愛いし。いるね。絶対。
 どうしてもっていうなら、確認してみる?」
「か、確認ってどうやって‥‥‥?」
「直接聞けばいいじゃん」
レッドグラスはさっさと歩いていった。

「ユキエ・ヒラサカ様、少しおうかがいしたい事が‥‥‥」
「はい?」
雪絵は赤いサングラスの男を見た。
「この度はとんだご災難で‥‥‥
 念のため緊急の連絡先をお聞きしたいのですが、
 ご実家の方とあと、お知り合いの‥‥‥
 例えばご交際されている男性の方とかはいらっしゃいますか?」
「え、あ、はい‥‥」
パスポートと手帳を見せる雪絵。メモをとるレッドグラス。
「これは‥‥‥恋人の方ですか?」
「え、あー恋人だなんて‥‥‥☆
 いや、でも、まぁそうなんですけど‥‥‥」
顔を赤らめながら答える雪絵。
「なるほど。いや、失礼いたしました」

レッドグラスが戻ってきた。うなだれている兄者。
「‥‥‥聞こえた?」
「うん聞こえた‥‥‥弟よ‥‥‥俺がバカだったぁ‥‥‥
 俺の恋ってばなんでこうも実らねぇかなぁ‥‥‥」
黒いサングラスが涙に濡れる。
「いや兄者‥‥‥諦めるのはまだ早いかもしれんぞ?」
「え?」
「彼氏といってもたぶん青臭い学生だろう。
 海外に来た彼女に、兄者が『大人の外国人の魅力』をアピールすれば
 あっさりなびくかも‥‥‥」
「それだァーッ!その手があったか!弟よ、お前はなんて頭がいいんだッ!」
「しかしそれには‥‥‥ヒラサカ様の彼氏が何者なのか正確に知る必要があるな。
 よし‥‥‥」

雪絵の所に紅茶を差し入れにきたレッドグラス。
「ご一緒にいかがですか?」
「あ、ありがとうございます‥‥‥」
ティーカップを受け取る雪絵。レッドグラスも隣に座って一緒に飲む。
「ヒラサカ様、さぞかし心細い事でしょうねぇ、ご家族や恋人の方とも
 離れ離れで‥‥‥」
「え、ええ‥‥‥」
「恋人というと‥‥‥やはり同級生の方ですか?」
「いえ、刑事さんなんです」
「‥‥‥え?」
手帳に入れた、恋人の写真を眺める雪絵。
「この人なんですけど、とっても優しくていい人で‥‥‥
 こう見えても東大出ですごく頭のいい人なんですよ☆」
「は、はぁ、なるほど‥‥‥」

兄者の元に舞い戻ったレッドグラス。
「どうだった弟よ!?」
「兄者‥‥‥悪い事は言わねえ、諦めろ」
「ええ!なんで!?」
「あの子の彼氏、刑事だわ。しかも一流大学出のエリート。写真見せて
 もらったけどけっこう快活そうな好青年だったし。兄者に勝ち目ないわ」
「ああン!?刑事がどしたぁ!俺ァボディガードだぞ!?」
「いやぁ‥‥‥ボディガードよりもエリート刑事の方がよくねえ?」
「バカヤロてめー映画の『ボディガード』観た事あるか!?
 むちゃくちゃカッコいいんだぞ!?愛の為にできる事!それは命を賭けて守る事ッ!」
「いや、あれはケビン・コスナーが演じてるからいいんであって‥‥‥」
「おだまりっ。何を隠そうこの俺がボディガードになろうと決心したのも
 あの映画を観たからなのだ!」
「‥‥‥それマジか?
 俺に一緒にボディガードになってって拝み倒してきたのもそれが理由?」
「いや、やっぱ1人じゃ寂しいしさぁ‥‥‥」
「それだけの理由で弟の俺まで巻き込んだわけ?
 俺あの時もう保健所に就職決まってたのにぃぃ!」
「うっせーなーガタガタ言うな!おかげで今けっこう稼げてるだろうが!」
「自分の夢に人の人生まで巻き込んでんじゃねー!」

怒りのレッドナックルが炸裂した。黒いサングラスが砕け散る。

「‥‥‥殴ったね?」(ゴゴゴゴゴ‥‥‥!)
「‥‥‥殴っちゃ悪いか?」(ゴゴゴゴゴ‥‥‥!)
「表に‥‥‥」「‥‥‥出ろ!」

今度は止める者はいなかった。
医療室の外で繰り広げられる壮絶な殴り合い。
「理屈だけで物言ってんじゃねーぞ若造がァ!」
兄者が殴る。
「うっせー!てめぇなんざネバーランドでも空島でもどこへでも行きくされぇ!」
弟も殴る。
互角の戦いは果てしなく続いた。


 


第18話に続く
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