〜炎の城〜
18 「レシェフvsキルマー」
| 「キルマー老、大した自信ですな‥‥‥」 自分が圧倒的不利。キルマーはそう言った。 「しかしあいにく私はあなた方にまだ全てを見せたわけでは、ない」 言いつつレシェフは考えた。 キルマーに近づく手段を。 (飛び道具で弾幕を張ってはいるが、それはつまり懐に入られるのが 苦手という事‥‥‥所詮は小柄な老人、接近戦なら私に分がある) ミュー戦のごとくクリムゾンラインを使ってもいいが、あの得体の知れない老人にはあまり自分の技は見せたくなかった。 「接近戦をお望みのようですな」 声と共に突如花瓶が投げられてきた。 「!?」 陶器製の花瓶がレシェフに当たり、破片と中の水が飛び散る。 次の瞬間一気にレシェフの目の前まで接近してきたキルマー。 だがレシェフはひるまず、掴みかかった。 「甘い」 伸びてきた手首を逆に掴み取り、引き寄せるキルマー。 バランスを崩したレシェフの頭に右ハイキックが炸裂した。 「!?」 「年寄りだと思って‥‥‥」 左後ろ回し蹴りも続いてヒットした。 再び右足を上げるキルマー。 「侮りなさるな!」 レシェフの腹部に足刀蹴りが叩き込まれた。 身長160cmそこそこの痩せた老人の打撃が180cm以上はある男を吹っ飛ばした。 テーブルにしたたかに背中を打ち付けたレシェフ。 「くッ、接近戦もなかなか‥‥‥ム!?」 レシェフは素早く横へ移動した。 背中をぶつけたテーブルに「カ」「カ」「カ」と手裏剣が刺さる。 (やれやれ痛がる暇も与えてくれないというわけか‥‥‥) そして立ち上がったレシェフの体にチェーンが巻きついた。 「!?」 上半身と腕を拘束される。 「これは‥‥‥!?」 ビュンビュンと風を切る音。 繋がったチェーンの先をキルマーが左手でしっかりと握り、 右手で鉄分銅の付いた端を振り回していた。 「ふぅ、今度は鎖分銅か‥‥‥!」 笑えるくらい息をつく暇がない。 「キルマー老‥‥‥そろそろ私にターンを譲ってはいかがかな?」 「甘えてはいけません」 「フッ‥‥‥このテーブルやら何やら障害物の多い所で そんな大振りな武器は少し不便ではないですかな?」 「‥‥‥。」 キルマーは回転する分銅を縦横無尽に振り回した。 削岩機のごとき破壊音が響き渡り、段々状のテーブルや椅子を粉々にする。 アッという間にキルマーの周りには何もなくなった。 「全く問題ない破壊力でございます。貴殿にもご満足いただけるかと」 レシェフは体格差を利用して逆に引っ張ろうとした。 しかし腰を沈め、内股気味に構えているキルマーは微動だにしない。 (この武器の扱い、一朝一夕で出来るものではない‥‥‥! この老人‥‥‥本当に何者だ?) フェアプレー精神も何もない。反撃の機会すら与えず、 確実に相手を仕留める。 間違いなく‥‥‥『殺し屋』だ。 「お覚悟を」 鉄分銅がレシェフの頭めがけ放たれた。 「私の炎を舐めるな‥‥‥!」 レシェフの全身が炎に包まれた。 業火一閃。 炎を纏い、舞い上がるレシェフ。その勢いで議会場中に炎が飛び火する。 分銅を回避しつつもその炎は、レシェフを拘束している鎖をも焼き払った。 「『ブレイジング・ゴールド』。私にこの技を使わせるとは‥‥‥」 レシェフは着地しつつ、ターバンを手に取った。 「ここからは、私のターンだ‥‥‥‥‥‥ぬッ!?」 右足に、痛みを感じた。 見ると、拳大の大きさはある毛むくじゃらの蜘蛛が牙を突き立てていた。 「こ、これは‥‥‥!」 「私のペットのタランチュラ達でございます」 「‥‥‥『達』?」 「この部屋に適当に何十匹か放しております」 よく見るとそこらの物陰で異形の虫達が動いているのが見えた。 「くっ!」 蜘蛛を踏み潰そうとしたが、それは素早くキルマーの所へと戻り、その懐へと 潜り込んだ。 「そう簡単には殺せませぬ。私がよ〜くしつけておりますゆえ」 「フン‥‥‥その割には部下のしつけは行き届いていないようだが? あのミューとかいう娘しかり‥‥‥」 「‥‥‥ホッ、出来の悪い子も意外に可愛いものでございます。 ときに‥‥‥顔色がすぐれないようで?」 「‥‥‥!」 レシェフは確かに目まいを起こしていた。毒も特別製のようだ。 「ほっ、ご安心ください。タランチュラの毒で死ぬ事はありませぬ。 ただ、体は多少痺れるかもしれませぬな」 体が多少痺れる。真剣勝負では致命的なダメージだ。 「それでは引き続き‥‥‥私のターンでございます」 キルマーの上着の袖から、小太刀ほどはあろうかという刃がせり出した。 レシェフは急いで距離を取った。壁際まで着く。 そして上着を開いた。内側に様々な器具が収まっている。 「毒グモの解毒は、確か‥‥‥!」 チュアブル(噛んで引用)式の錠剤を取り出し、口に含んだ。 その様子を眺めるキルマー。 「ほう、解毒剤を持っておられましたか。準備の良い事で。しかし即効というわけ にもいきますまい。薬が効くまでに仕留めさせていただきます」 「お、おのれ‥‥‥!」 壁にもたれつつ、構えるレシェフ。吐き気が増してきた。 レシェフはその手に炎を宿した。 「クリーピング・レッド!」 地を這う炎塊がキルマーに向かう。 「‥‥‥フム」 キルマーは袖のナイフをまっすぐ炎に突き立てた。 「はぁーッ!」 高速で幾重にも円を描く。竜巻に巻き込まれるがごとく、炎はかき消された。 「‥‥‥!」 「そんな集中力を欠いた技は効きませぬ」 ‥‥‥不利だ。 悔しいが最初に奴が言った通りだった。 ここは奴の"巣"だ。 フィールドが悪すぎる‥‥‥! なんという事だ。大統領を締め上げてくるだけのつもりが‥‥‥! この危機を回避するには‥‥‥ 「もしよろしければ逃げ場を作ってさしあげましょうか?」 キルマーは床の一部を外し、中のスイッチを押した。 「!?」 突然レシェフのもたれていた壁が可動した。いそいで離れる。 背後にあった壁が左右へと開いていった。 そこには『空』が広がっていた。 ビル群が眼下に広がる。 「‥‥‥!」 議会場に風が吹き抜けた。 「そこから一歩踏み出すだけで今の危機から逃れる事ができますぞ。 私に仕留められるか、どっちか好きな方をお選びください」 「‥‥‥ありがたい。ご好意に甘えるとしよう」 「‥‥‥なッ!?」 レシェフはセントラルタワー地上60Fからダイブした。 |
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