〜炎の城〜
19 「最後の尋問」
| サロンのソファに腰掛けている、男と少年。 ディーは横にいるゴードンを見た。 何を考えてるのかもわからない、無表情。 その横顔からは何も感じられない。 自分に敵意を持っているのかどうかさえも。 「‥‥‥。」 ふと一つの問いが、ディーの口をついて出た。 「なぜ‥‥‥殺せるのですか?」 ディーは孤児だったのをレシェフに拾われた。 そして必然的に『暦』の戦士として育てられた。 レシェフに師父としての恩を感じている反面、暗殺者の立場に貶められたという 思いもあった。 彼は、悩める暗殺者でもあった。 「人を、なぜ殺せるんですか?」 ゴードンは相変わらず、テレビに目を向けながら答えた。 「‥‥‥私は必然でない争いは好まない。しかし向こうから仕掛けてきた場合は 別だ。私自身を守る為に、全力を持って戦うまでの事。誰だってそうだろう? あの事件の場合、彼らは私を殺そうとしていた」 「それは‥‥‥あなたが彼らにひどい事をしたからじゃないですか! うまい話で喜ばせておいて、資源を搾り取り破滅に追いやる。 ‥‥‥何の為にそんなひどい事ができるのですか?」 「『力』が欲しいからだよ」 「‥‥‥。」 「紅茶でも飲むかね?」 ゴードンはそばにあったティーポットから2杯の紅茶をカップに注いだ。 ディーの目の前にカップが置かれる。 「どうぞ‥‥‥大丈夫、毒など入れてないよ。私も飲んでるだろ?」 「‥‥‥。」 ディーはカップに触れる気にもならなかった。 それに対し紅茶を口に含むゴードン。 そして話を続けた。 「"階段"がね‥‥‥現れるのだよ」 「階段‥‥‥?」 「そう、上へ昇る階段だ。昇りきったと思ったらまた目の前に、それを昇りきったと 思ったらまた目の前に、というふうにね」 「‥‥‥。」 「何をするにも『力』がいる。物を買うには金の力がいる。 政治を動かすには権力がいる。呼吸するのにすら力が必要だ。 そして、私の人生に現れる"階段"を昇るのにも、ね」 「もうかなりの階段を昇ってきた気がする。それでもね、いまだに現れ続けるのだよ。 しかし私は‥‥‥それをのぼりつめたい。 階段がある以上、それを昇っていきたい。どこまでも。 高く、高く、ただ高く。この私の力続く限り、ね」 「その為に他人を犠牲に‥‥‥あなたは人の命をなんだと思ってるんですか?」 「私は力を手に入れる為なら何でもする。 何を犠牲にしてでも、だ。自分の夢と他人の夢‥‥‥私は自分の夢を取ったまでだ」 「あなたは‥‥‥大統領なのでしょう? みんなの幸せを考えてはいないのですか?」 「少なくともガイアの国民は幸せになったがね。 力を手に入れる為、ガイアを強くする為にあらゆる手を使ったよ。むろん、 "ひどい事"もした。その結果現在のガイアの繁栄がある」 「そんな‥‥‥勝手すぎる!」 「私は神ではない。 全ての人間を幸せにする事などできないし、しようとも思わない。 私は私自身の為に生きている。 そしてどんな事をしてでも自分の夢を追求する」 「‥‥‥そんな事が許されると思っているのですか?」 「‥‥‥『許さない』と言ってみろ」 「!‥‥‥」 「『許さない』と言って私を止めてみろ」 長い沈黙。 動けない。ディーは動けなかった。 ディーの中の何かが「戦うな」と言っていた。 「‥‥‥腰抜けめ。いっぱしの信念を持った"戦士"なら、 最初に私の姿を見た瞬間、攻撃をしかけてきたはずだ。 迷ったあげくのんきに質問などしたりしない。 敵を前にしてなお迷う‥‥‥これは敵である私に対する侮辱だ」 殺される。 ディーはそう思った。 |
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