〜炎の城〜

20 「レシェフVSゴードン大統領」


セントラルタワー60Fから飛び降りたレシェフ。
空気の豪流が襲い来る。

全身に風を受けつつも、レシェフの目はセントラルタワーの下の階層へと向けられていた。
窓の開いている階を発見した。
「ムンッ!」
ターバンを解き、虚空へと放った。
クリムゾンライン。
窓への黒き帯の道が、宙空に固定される。
その上をレシェフは一気に駆け抜けた。
駆け抜けた後を炎が伝い、帯を跡形もなく消していく。
レシェフは窓の中へと飛び込んだ。


部屋に飛び込んだ瞬間、素早く受身を取る。
自分が飛び込んだ事で中は大騒ぎになるかと思いきや、反応は意外に少なかった。
サロンらしき部屋に、人はソファに座っている2人だけ。
しかも並んで座っている片方は、自分の連れだった。
「レシェフさん‥‥‥!?」
「ディー‥‥‥?」
レシェフの視線が相方を確認した後、もう1人の人間に向けられた。

レシェフとゴライアス・ゴードンの目が合った。

「!!!」
レシェフの行動は素早かった。
「ディーッそいつから離れろォォォォォーーーーッ!!!!!」
ディーにとびかかりその体を突き飛ばす。そしてソファの男へと向き直った。
「ウォォォォォーーーッ!!」
レシェフがその両手にあらん限りの業火をたぎらせた。
「消えろォォッ!!!」
組み合わさった両手の炎がゴードンにむかって放たれた。

紅蓮の豪砲『ナパームブラスト』が炸裂した。

大きく轟き、舞い散る炎に反応して、火災報知ベルが鳴り響く。
サロンは炎と黒煙に包まれた。
「レ、レシェフさん‥‥‥?」
ディーがおそるおそる師父の背中へ声をかけた。
「‥‥‥。」
レシェフは目の前の敵を見据える。
炎と黒煙が舞う中、そこにはソファに腰掛けたままレシェフに向かい、
大きく"手の平"を広げたゴードンがいた。
「なっ‥‥‥!」

ナパームブラストを片手で防いだというのか‥‥‥!?

「効いて‥‥‥ないの?」
かすれるようなディーの声に、ゴードンは答えた。
「いや、けっこう効いたよ‥‥‥熱いし痛い。私だって人間だ」
(人間じゃない!)
ディーは天を仰ぎたい心地だった。
そのディーを小脇に抱え、レシェフは窓の縁へと跳んだ。
「レ、レシェフさん!?」
「我々にはまだ、すべき事がある。
 こんな所でもうこれ以上ダメージをくらうわけにはいかん」
「逃げるのかね、暦(カレンダー)?」
「!‥‥‥」
ソファの男を睨みつけるレシェフ。
あからさまな挑発に乗るほど彼は平静を失ってはいなかった。
しかし戦士としてのプライドが、レシェフに次の言葉を言わせた。

「決着をつけたくば‥‥‥『トゥエルブムーンシティ』で待つ‥‥‥!」

そしてディーを抱えたまま40Fから再びダイブした。
「レシェフさん、ラバンダのテロリストたちは‥‥‥」
「言うな」
セントラルタワーの壁面を一気に駆け下りる。
「彼らがどういう末路をたどったか、あの男を見れば容易に想像がつく‥‥‥!」
地面が見えてきた。
クリムゾンラインの帯で体を受け止め、軟着地した。
突然の奇異な光景にどよめく一般市民におかまいなしにレシェフたちは
車道に出て、一台のタクシーを止めた。
後部座席の扉が開く。
「‥‥‥また旦那さんがたですかぁ!?」
偶然にも行きの時と同じ運転手だった。
ディーと共に乗り込む。
「ニューヘブンズヒル国際空港へやってくれ」
「へ?空港ですか?この国に来たばかりでしょう?」
「急いでいる。頼む」
「へ、へえ‥‥‥」
タクシーは走り出した。


キルマーは40Fサロンへと駆けつけた。
「閣下!?ここにおられましたか!」
窓から外を眺めていたゴードン。
「客人なら、もう帰ったよ」
「閣下、奴らは『暦』と称する組織で‥‥‥」
「ああ、そう言っていた」
「申し訳ございませぬ。私とした事が最後のツメを見誤りました‥‥‥!」
「キルマー‥‥‥お前が『完璧な仕事』を仕損じるとはな」
「‥‥‥面目次第もございませぬ。かくなる上はあやつら、
 生かしてこのガイアから帰しませぬ!ただちに空港等に通達を‥‥‥」
「かまわん。行かせてやれ」
「な!?」
「二度は言わんぞ」
「‥‥‥かしこまりました」
「あとキルマー‥‥‥"トゥエルブムーンシティ"について調べてくれ」
「かしこまりました‥‥‥そこに奴らが潜んでおるのですな?
 所在地がわかりしだいそこへ行かれますか?」
「‥‥‥さぁな」


 


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