〜炎の城〜
21 「炎の跡」
| 夕日がガイアの地を染める午後6時。 ゴライアス・ガーデン30F大広間にて各界の著名人を招いた晩餐会が行われていた。 「うん‥‥‥おいひぃ〜い☆」 立食形式のテーブルに並べられた贅を尽くされた料理に雪絵も舌鼓を打っていた。 「と、ここで油断してるとまた何が起こるかわからないわ‥‥‥!」 注意深く周囲を見やる雪絵。しかし特に不穏な気配はない。 「‥‥‥今は何もないみたいだけど‥‥‥ また昼の黒ターバン男みたいな超ヤバイ奴が現れたりしないかしら‥‥‥!?」 列席者たちからおお、と声が上がる。 パーティーの主役が現れたからだ。 ガイア共和国大統領、ゴライアス・ゴードンは行き交う人々と挨拶を交わしつつ、 雪絵の方へと歩いてきた。 「パーティーは楽しんでいただいてるだろうか、ミス・ヒラサカ?」 「は、はい!おかげさまで‥‥‥」 ゴードンの方から話しかけられた事に少々驚きつつ、雪絵は挨拶した。 「昼間の事は深くお詫びする。甘い警備を敷いていた私のミスだ」 「い、いえそんな‥‥‥」 「なんでも、部下の命まで助けてくれたそうじゃあないか。本当に感謝にたえない」 「いえいえ、と、当然の事をしたまでで‥‥‥!」 恐縮しまくる雪絵。 (そういえばミューさんどうしてるかな‥‥‥) あの黒ターバンの男は言った。 「今日という日を忘れるな。自分のした事がどういう結果を招くか見届けろ」と。 その結果であの男が正しかったか、雪絵が正しかったかがわかる、と。 (‥‥‥人を助けたんだから、私が正しいに決まってる、よね‥‥‥) 「ところで、ミス・ヒラサカ」 「は、はひっ!?」 「私の部下たちは大分犠牲を払ってしまったが、君はケガはなかったのかな?」 「え、あ、はい、おかげさまで、なんとか、ケガはなかったです、ハイ!」 「奴らと相対して、無傷で済んだのはキルマーと君だけだ」 「え?」 「君は‥‥‥不思議な子だ‥‥‥」 大広間の警護を担当しているブラックグラス。 不審者がいないか注意深く部屋中を見回る。 ゴードンと雪絵が会話しているのが目に入った。 「ユキエ・ヒラサカ‥‥‥俺の恋は‥‥‥いつも渋い柿の味だ‥‥‥」 あまり良い表現ではなかったが、実際そんな気分だった。 懐の携帯が鳴った。 「‥‥‥俺だ」 『兄者か。今、医療室を見てきた』 「‥‥‥"手負いの野獣"はどうしてる?」 『今キルマー様が餌を与えてるところだ』 「くれぐれもこっちによこすなよ。特に今は大統領閣下とヒラサカ様が 話しこんでる所だ。こんなとこ目にしたら‥‥‥」 『ああ、キルマー様が晩餐会の間ずっとついてるそうだから大丈夫だろう』 医療室。 ミューはベッドから体を起こし、食事をとっていた。 キルマーが笑みを浮かべつつ、さじでポタージュをすくいミューの口に含ませる。 「‥‥‥キル爺」 「ん?」 「なんだよさっきからニヤニヤしやがって、気持ち悪ぃ」 「ほっほ‥‥‥いやな、お前と出会った頃の事を思い出してな‥‥‥ あの時もちょうど、こんな風に私が世話をしてやったものだ」 「ああ‥‥‥あの時はキル爺、すっげえイヤがってたけどな」 「当たり前だ。閣下の好意に味をしめた乞食娘にしか見えなかったからな。 ケガが治った後も、そばに置いてほしいと言い出した時はどうしたものかと 思ったわ」 「でも、結局承知してくれたしな。やっぱあんたイイ奴だわ」 「師匠にむかってイイ奴もなかろうが」 軽い食事を済ませ、横になるミュー。キルマーはまだそばにいた。 「キル爺‥‥‥」 「なんだ?」 「‥‥‥強くなりてえ」 「お前は十分強かろうが」 「あいつに負けた。全然かなわなかった」 「世の中上には上がいる」 「強くなりてえ。あいつを見返してえ。そして‥‥‥」 「?」 「ゴードン様から『完璧な仕事』を求められるようになりてえ。 キル爺、あんたみたいにだ」 「‥‥‥ミュー、今日はもうゆっくり休め」 「ああ。‥‥‥これからは修行とかいうやつ、もっと真面目にやるよ」 「それはいい心がけだ」 ニューヘブンズヒル国際空港。 レシェフとディーはトゥエルブムーンシティ行きの便に乗っていた。 「‥‥‥‥‥‥。」 2人とも無言だった。 2人とも同じ疑問を胸に抱いていた。 なぜ自分たちはこの飛行機に乗れるのだ、と。 当然この空港にもゴードンの力が及んでいるはずである。 レシェフは空港でも一戦交える腹積もりでいた。 最悪、飛行機をまるまる一機奪ってでも脱出を図るつもりだった。 しかしチケットを購入でき、検閲を通る事ができた。 偽名を記したパスポートもあっさり通った。 空港のガードマンも自分達のことなどまるで気にした風もない。 「レシェフさん‥‥‥」 ディーが自分を見る。 落ち着いてはいるようだが、その瞳からは不安な気持ちが見て取れた。 「ディーよ、最後まで油断はするな」 「はい‥‥」 ふと、スチュワーデスが近づいてきた。 「ナダム様でございますか?」 今回使ったパスポートに記された偽名を呼ばれ、レシェフは振り向いた。 「私だが?」 「お客様にゴードン大統領からメッセージが届いております」 「!?」 レシェフは一通の封筒を受け取った。手紙を取り出す。 上質の紙に、簡素な文字が印刷されていた。 『出会いは突然に、別れも突然に。 あなたの贈り物に私は久々に感動と興奮を覚えた。 見送りをつけない無礼をお許し願いたい。 あなたからいただいた"招待状"だが、なにぶん政務が忙しいゆえ スケジュールと見合わせた上で前向きに検討したい。 では、良き旅を。 ゴライアス・ゴードン P.S まさか炎を出すとは予想外だったよ。 』 「‥‥‥フン」 レシェフが放った手紙をディーも目を通す。 「これは‥‥‥?」 「どうやら、我々の出国を邪魔する気はないらしい」 「なぜ‥‥‥」 ディーは質問しようとして、やめた。自分で考えてみた。 (‥‥‥‥‥‥) ‥‥‥しかし、わからなかった。 「ディー、奴の事は考えるだけ時間の無駄だ」 「は、はい‥‥」 「今はもう、次の任務の事を考えろ」 「はい」 もう"招待状"は送りつけてしまった。あとは、むこう次第。 「こちらが本命だからな。行くぞ、トゥエルブムーンシティへ」 「はい」 紅く染まる空へむかい、飛行機は離陸の準備を始めた。 |
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