〜炎の城〜
「"ORGEL"」II
| ゴードン上院議員は車の後部座席から外を眺めていた。 「‥‥‥‥‥‥キルマー、止めろ」 運転席の老人がブレーキを踏み、車を止めた。 「少しバックしろ」 車が20mほどバックした。 車の外に出るゴードン。 そこには傷だらけの少女が倒れていた。 「行き倒れですかな‥‥‥」 老人が少女を見やる。 「‥‥‥‥‥‥。」 少女を見下ろすゴードン。 しかししばらくして少女を抱え上げた。 糸の切れた操り人形のような少女を抱え、後部座席へと戻る。 老人は嫌そうな顔をしたが、再び運転席へと戻った。 「この時間開いている病院はあるか?」 「あいにく1つもございませぬ」 「では家へ連れて行く‥‥‥緊急病院も作らねばならんな‥‥‥」 車は走り出した。 (ここは‥‥?) 走る車の振動で、少女は意識を取り戻した。 うっすらと目を開ける。 雪の上でなく、誰かの膝の上にいる。スーツを着た男のようだ。 振動が気持ち悪い。しかしさっきとは打って変わった暖かい空気がなによりもありがたかった。 こころなしか、呼吸が楽になったような気がした。 自分は自動車の後部座席にいるようだ。 どうやら今、膝枕をしてもらっている男に拾われたようだ。 顔を見たいが、首を動かすのがつらい。 (チッ‥‥‥‥) こいつの魂胆はわかってる。自分の体が目当てだ。 時々いるんだ。自分のような年の女の子にしか興味を示せない大人が。 今まで何度かそういう奴に声をかけられた事がある。みんな返り討ちにしてやったがな。 ゲス野郎が。 少女は再び目を閉じた。 男に抱えられ、少女は暖房のきいた部屋に運ばれた。 寝かされたベッドの上で、少女はまた目を開けた。 ベッドの柔らかさが心地よい。白いシーツが泥と垢で汚れたが知った事じゃない。 問題は、目の前の男だ。 今は休みたい。もう顔も見たくない。 しかし大きな男の影は自分に近づいてくる。少女は侮蔑を込めて言った。 「‥‥子供に手ェ出すと高くつくぜ?」 男の手が少女の体を起こした。 「!?」 目と目が合った。 後ろに馴らされたブロンドの髪に白い肌。アゴがかなり長いがなかなかのハンサムだった。 なによりもその、目。 「あ‥‥‥」 一瞬で全てを見透かされたようなその目に、少女は頭の中が真っ白になった。 次の瞬間、少女の顎が掴まれた。 「!?」 「口を開けてごらん」 男の言葉に素直に従い、口を開けた。 「‥‥‥‥口の中は切れていないな。よほどしっかりと歯を食いしばっていたんだな。 これなら、飲み物くらいはのどを通るな」 青年がベッドの側に置いてあったポットから紅茶を入れた。 「熱くはない。人肌にさましてある‥‥カップは持てるかね?」 脇腹はまだ痛かったが、車の中でゆっくり休んでいたおかげか体は動く。 少女はティーカップを両手で持って飲んだ。 甘味を含んだ暖かい液体がのどをうるおす。 それは体内にしみわたり、少女はやっと生き返った気分になった。 「なんであたしを‥‥」 「もう0時を過ぎたな」 「‥‥‥‥?」 「"12月25日"だ」 男の大きな手が、少女の頬にそっと触れた。 「今日は全ての子供たちに、祝福が与えられる日なんだそうだ」 「‥‥‥メリー・クリスマス」 男はニコリともせず言った。 しかし、その手の暖かさが頬に伝わってきた。 笑えてきた。 笑えてきたけど泣けてきた。 少女の目に涙があふれてきた。 それは、とめどなくあふれてきた。 少女は男の手のぬくもりに、身をゆだねた。 最高の、クリスマスだった。 |
| 第12話に続く |
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