KOFXXオリジナル小説
一月の蒼い月

02

作者 蓮華


コーラルは目を見開いていたし、白兎も言葉を無くしていたが、信じていないと言うわけではない。

「どうした?」

「いるのね。本当に」

「お前がないと思うならないし、あると思うならある」

皮肉めいた口調で暁が言った。新聞を広げると、その中の記事を指さした。この街についての記事だった。
行方不明者が多発していると言うものだ。行方不明者は珍しくはないのだが数が問題だ。街の規模と比べれば多すぎる。

「行方不明者が吸血鬼にでもなったとか?」

「吸血鬼にも種類があって……時間か。行ってくる」

ベット脇の時計を見て、暁が言う。講義と言ったところだろうが、用事のために後回しのようだ。

「彼女はどうすれば?」

暁は薬ケースを投げる。

「投げるのが好きだね」

白兎が言う。コーラルは薬の中身を確かめる。暁が部屋を出て行く。コーラルは見送った後で
自室を出て、自動販売機までミネラルウォーターを買いに行った。


学校帰り、少女はラクロス部で、今日も遅くまで練習をしていた。一月は基礎体力を作らなくてはならない。
ラクロスのラケットを背中に担いで家路へと急ぐ。今日の夕ご飯はお母さんがビーフシチューを作ってくれると
言っていた。こんな寒い日だ。暖かいものが食べたい。暖房の入っている家へと帰りたかった。
人気が多い町中を歩いていく。
寒いから近道をしようと、裏路地を通ることにした。ここを使えば、少しは家への道を短縮することが出来る。

「雪、降りそうだし……急ごう」

鞄とラクロスのラケットをしっかりと持って、薄暗い路地を歩いた。電灯はついているが、大通りに比べて暗い。
電灯の一つが電球が電球がきれかけているらしく、点滅していた。
分かれ道があった。帰るには路地を右に曲がれば良い。曲がろうとしたら……気配がした。
左の道は行き止まりだ。なのに、誰かがいる。
こんな時間なのに誰か……何かおぞましい者が居る。ぞく、と寒気がする。寒さで起こる寒気ではなく
身体の底からわき上がる寒気がした。
……怖い。
恐いのに視線は、足は左の路地へと向かっていた。そこには落書きされた壁があったはずだ。
眼が、裏路地の行き止まりを捕らえた。
確かに、落書きされた壁があった。そしてそこは……圧倒的な戦争と劇を足したかのような場面が広がっていた。
この場の主役だったのは、赤いロングコートを着た男。人間ではないことぐらい直感で分かった。
あんな見ているだけでも抉られるような雰囲気を持つ者は人間ではない。
夜に街を歩いていたらしい不良が三人、路地裏にいたが、誰もが震えていた。
その中の一人に男が手を触れると、不良の一人は悲鳴を上げることなく、人間から砂になり、崩れ落ちた。
男の手には紅い液体が付いて、それが消えた。
消えたのではなく、手に無数にある小さな口に吸われたと言った方が正しい。
寒いなんて感じなかった。恐怖だけが支配していた。足が動かない。どうしてこんなところに来てしまったのだろう。
好奇心?そんなものではない。何となく?それじゃあ、今の状況を説明出来る理由にならない。
眼を逸らすことも出来ずに少女は不良たちの血が手によって吸われて、不良が灰になるのを見ていた。

「吸血、鬼……?」

やっと、それだけを喉から絞り出した。ラクロスのラケットと鞄が落ちる。
男はゆっくりと振り向いて、少女の方へと歩み寄ってきた。一歩も足が動かない。もう、見ていることが出来なくて眼を閉じた。
そして首筋に痛みを感じてようやく気付いたのだ。
―――――――――――ああ、私は引き寄せられていたのだ、と。

「……ここは……?」

少女は眼を覚ました。服が着替えられていて、制服ではなく、薄ピンク色のパジャマでホテルの支給品だった。
シルクで出来ていて、とても高級なのだが、それよりも少女はここが何処なのか気になり、見回した。

「気が付いた?ここはね。ホテル」

起きた少女が最初にあったのは金色の髪の毛にマリンブルーの瞳をした少女だ。気絶する前に最後に見た少女だと判断した。

「……貴方……は……?」

「私はコーラル・アクアマリン。こっちは白兎(ホワイトラビット)」

少女は腰につるしてあるぬいぐるみを見せる。それは確かに白兎のぬいぐるみだ。まだ話そうとした時にまた胸が苦しくなった。
苦しくて胸を掻きむしりたくなるような衝動が襲いかかる。コーラルはそれを見ると、買ってきたミネラルウォーターの
ボトルを開けた。そして中に暁が投げた薬を溶かし入れた。透明な水は薬を入れた途端に、溶けて紅い色となる。
少女は喉を鳴らした。ボトルの蓋を閉めて、数回振る。それは少女が飲みたくてずっと耐えてきたものだ。

「血……」

「血液製剤、そうだ。貴方のこと吸血鬼って知ってるから」

怯えている様子はない。私、貴方の好きな人を知っているから、そんなノリでコーラルは言った。
ボトルに入っているのは水ではなく、血液製剤で変化させた水で、血液と同じものだ。

「……どうして……解るの…?」

「判断したのはアイツだけどね。アイツはちょっとずれてるし」

「飲んだ方が良いよ。随分弱ってるみたいだから」

ぬいぐるみが喋ったように見えたのは空腹のせいではないらしい。驚きながらも何とか理性を保とうとする。
確かにあれからしばらくは血なんて飲んでいない。ずっと吸血衝動と闘ってきたのだ。人間で言う空腹や喉の渇きが
血を吸いたいというのにすり替わったものだ。

「……私が恐くないの?貴方……殺したりとか、それに私……貴方のことを殺すかも知れないのに」

少女の問いを聞いてコーラルは少し考えた後で言う。

「恐くないって言うか……昔にもっと恐いのを見たし、私は貴方みたいな人を殺したくはないから」

「私……人を殺しているのよ……?化け物なんだから!素手で人を引きちぎれるし、人より速く走れるし
貴方だってすぐに殺せる!!」

どうしてそんな風に普通の人と同じように接するのだろう。自分は化け物になってしまったのに。
今はもう殆ど力が残っていないが、それでも、コーラルのような少女を素手で引きちぎり、吸うことだって出来た。
あの時、血が吸いたくて絡んできた不良を引きちぎり、叩き潰して血を吸った。とても美味しかった。
こうして抑えているが今も、無差別に人を襲って血を吸おうとするもう一人の自分が居た。
コーラルはそんな少女に向かい笑顔を見せた。

「でも、貴方はまだ人間だから……今まで良く、頑張ったね」

少女は血を吸おうとするもう一人の自分を抑えているし、血を吸い人を殺していることに後悔していた。
だからまだ人間なのだ。人を殺して血を吸うことに罪の意識を感じているのだから。
コーラルの言葉を聞いて、少女は今までのことが崩れたかのように、感情が溢れたように泣き出した。
黙ってコーラルは少女の頭を撫でた。


 

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