KOFXXオリジナル小説
一月の蒼い月
03
作者 蓮華
| ホテルに隣接しているバーで、暁はピアノを弾いていた。弾いていた曲が一昔前に流行していた曲だった。 バーでピアノを弾くようになったのは、彼にしてみれば暇つぶしのようなもので、給料よりも ピアノを弾くというのに重点が置かれている。暁はクラシックの方が好きだったのだが、リクエストでこれを 引いていた。たまに歌手の伴奏を引く時もある。ピアノを弾くのだってピアニスト並みに上手だ。 「ごくろうさま」 老バーテンダーが暁に言う。暁は黒い瞳をしていた。彼は生まれつき金色の瞳をしていて、それを隠さずに 日常を過ごしているが、こう言う時にはカラーコンタクトを着けていた。 「行方不明者が多発しているのか」 「恐いものだね……それでも、変わらないように見える」 行方不明者が多発しているとは言え、夜の人通りは完全に減ったというわけではない。街は変わらないように見えた。 「小さな変化に気付きにくいのだろうな」 バーが閉店して、暁はマスターの奢りで酒を飲んでいた。ギムレットだ。少しするとバーに置いてある ファックスが音を立てて、紙を出していく。 「待っていたファックスはこれかい?」 「ありがとう。貸してくれて」 バーテンダーはそれ以上は聞かず、暁にファックスの紙の束を渡した。この店に来た時にすぐに頼んだものだ。 知り合いにあることを聞いておいたのである。聞いてから半日と経っていないのに送ってくるのは相変わらずだ。 酒を飲み干すとファックスの紙の束と共に暁は店を出て行く。 ホテルまで歩いて帰り、コーラルの部屋の前に立ち、ノックをするとコーラルが出てきた。 「おかえりー」 言ったのは白兎だ。暁はそのまま部屋に入った。ペットボトルが数本転がっていて、中身が赤い。 「この人は……?」 「暁って言うろくでなしだよ。彼女は水越夕陽(みずこしゆうひ)この街の高校の二年生だって」 「夕陽か。皮肉だな」 暁は夕陽の前に立つ。夕陽は暁に怯えているようだった。初対面の青年がこうして現れたのだし カラーコンタクトを部屋に入る前に外したので、暁の目の色は本来の色である金色である。金色の瞳には威圧感がある。 「暁様、何か解ったんですか?」 「彼女に自我はあるか?」 「あるよ。だからこうしているんじゃないか」 白兎の言葉を聞いて、暁はため息をついた。暁がため息をつくと言うことは珍しい。行き詰まった研究が 進まなくてため息をつくとかそう言うことがないからだ。暁は夕陽に吸血鬼になった経緯を聞いた。 コーラルと白兎は夕陽から先に聞いている。夕陽が話したのは、学校の帰り道、裏道を通ったら吸血鬼に 逢ったこと、咬まれて、自分も気が付いたら、人を殺して血を吸っていたこと。そしてそれが恐くなり 隠れて暮らしていたと言うことだった。 「水越だったな。聞け、お前等もだ」 「出たね。講義」 暁がそう言うとこの部屋にいる誰もが、暁の言葉を聞こうとしていた。彼がこう言えば例え騒がしい 大学のキャンバスでも小学校の教室でもたちどころに静まりかえって聞こうとするだろう。 「吸血鬼というのは主に三種類。先天性と後天性、後天性が二種類ある。他には魔術で吸血鬼になったり 科学で吸血鬼になったなどだ。後は先祖返りや突然変異」 「……吸血鬼にも種類が居るのかい?」 「動物や人間も種類があるのに吸血鬼にないのはおかしいだろ」 白兎の質問を暁が返す。納得出来た。猫にだって種類があり、犬にだって種類があるし、単一としか見えない人間だって 白人や黒人が居る。なら吸血鬼にいたっておかしくはない。先天性吸血鬼というのは生まれついての吸血鬼。 これは数が少ないらしい。吸血鬼は繁殖能力が人間よりも少ないなどの理由があるが良くは解っていない。 そして後者の後天性は人間だったのに吸血鬼になったものだ。吸血鬼に咬まれて吸血鬼になったもの。 魔術や科学で吸血鬼になったり、先祖返りや突然変異もあるが今回は違うので割愛した。 「それは分かるよ。夕陽ちゃんは咬まれたって。でもそれがどうなの?」 「後天性は主に二種類あって、一つ目は有名な穢れない人が咬まれて吸血鬼になるタイプだ…でコイツは二番目」 「二番目?」 コーラルが聞く。一つ目の条件というのは適当にしか言っていないがコーラルにも夕陽にも白兎にも解った。 暁によって重要なのは二番目なのだ。そして夕陽も、二番目に該当しているのだと言うことを。 「……食人鬼からリビングデッド、ヴァンパイアと経由する場合だ」 後天性吸血鬼の二番目条件の場合、吸血鬼が人間から血を吸うと死ぬが、吸血鬼は自らの血を少しだけ 死体に残しておく。そうすると殺されたのに死なないようになる。死後数年たって脳が腐敗し、 魂が肉体に固定した状態と言うべきか。そして腐敗した肉体を補うため他の遺体を食べる。 肉体を補い終わるとグー流破リビングデッドへと成長する。 グールになれる確率はおよそ百人に一人。 リビングデッドは生きる死体でありグールが肉体を補い終わった段階だ。 能力的には死者よりも劣るが自らの意思を持つ一人前の吸血種であり、その後人間としての 知識を取り戻したものがヴァンパイヤ……吸血鬼と呼ばれる。そこまで行くのは一万人に一人の確率だ。 「それはおかしい。彼女は吸血鬼と言った。死後数年も経っていないようだけど」 「……良いか。水越夕陽、お前はな、吸血されてから、グール、リビングデッド、吸血鬼と言う過程を すっ飛ばしていきなり吸血鬼になったんだ……これは一千万人に一人の確率だ」 |
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