KOFXXオリジナル小説
一月の蒼い月

05

作者 蓮華


今夜は四人だ。掃除を始めてから一週間以上が経過したが、数が少なくなってきている。
それでも、本当に掃除を終えるには一年以上の時間がかかる。ヴァイツ・レミンカイネンは帰路へと付いていた。
教皇庁の悪魔殺しの機関、聖痕機関。その聖痕機関が魔王の異名を持つイスルートを倒すために動いたのは
数ヶ月前のことだった。奴は村や町を活発に潰していった。まるで自分の実力を誇示するように。
戦争で言うならば、大量破壊兵器でも使って敵の軍を潰していくとかそんな風に例えられる。
奴は死んだ。こっちも仲間の半分以上を失ってしまい、生き残ったのは自分だけだ。
教皇庁の聖痕機関の威信にかけてと、闘った結果がこれだ。ヴァイツだって、アレがなければ今頃
こうして動くことすら出来ずに死んでいただろう。生き延びていたとしてもパトロールなんてやっていられなかっただろう。
グールの殲滅は他の機関に任せても良いのだが、ヴァイツには気になっている言葉があった。
魔王が死ぬ間際に言った言葉、この手で魔王の心臓に手を突き刺した時。

『私がこんな極東で死ぬとは……まあ良い。この島国で良い器を見つけた……奴は……』

そう言って滅びたのだ。良い器とは何なのか、イスルートのようなものなのか。それを狩るまでヴァイツは
教皇庁には帰ろうとは想わなかった。

「もう少し勘が戻れば……気配ぐらいたどれるってのに」

大分勘が鈍っていた。今だって街の中を出て神経をとぎすませて、グールを探して狩っているだけなのだ。
身体は回復しているが精神の方はまだ回復しきっていない。回復すれば気配でたどることが出来るのだが……。


朝、暁が起きたのは午前八時だ。モーニングサービスを頼んで食べて、新聞を読んだ。
行方不明事件は書いてあるが記事が小さくなっていた。人間は忘れる生き物だ。
それから一時間ほどクラシックをラジオで聞いているとドアがノックされた。
ボーイかと想ったが、コーラルだ。

「おはよう」

「……おはよう。水越は?」

「寝てる。カーテンをしっかり閉めて、日が届かないように、後、フィルム貼ったから」

フィルムとは暁の鞄の中にあった薄いが太陽の光を通さないようにするフィルムだった。前に作ったらしい。
窓に貼っておいたので太陽の光は遮断されていて、後はカーテンを掛けておくだけだ。
今日は冬なのに晴れていた。日差しの強さは、夏ほどではないが。

「どうするんだい?彼女?……ああ、コーラルに聞いてるんだよ」

白兎が聞いた。メインコンピューターを白いぬいぐるみに移動させた今もこう言うところは相変わらずだ。
昔の身体よりも幾分か縮んでしまったが、その口調は変わらない。

「暁様、彼女を人間には戻せないの?」

「吸血鬼は肉体が汚染されてるからな……方法はあることにはあるが」

方法があるというのに、その方法はいくらでも思い浮かぶであろう暁だが乗り気ではなかった。
元々暁は科学者のようなもので、現代科学で、ようやく成功したクローンを人間ですでに成功させていたり
その他にも様々な研究を成功させていて、ノーベル賞すら貰えるような男だ。

「君が言ってるのはさ。例えそうしても、彼女の心の罪は消えないって事だろう?」

「……大抵そうだからな……忘れさせたとしても別人にはなれない」

感傷で言っているのではなく、経験から言っているのだった。心というのは厄介なもので、完全に罪の意識を
消すことは出来ない。最初から持っていないのならまだしも、彼女は少し前まではどこにでもいる今頃は学校で
授業を受けているような女子高生だったのだ。

「でも、彼女はまだ人間よ?」

「そうだな。判断は彼女に任せることにしよう」

暁は言い切るとコーヒーを飲み出した。
夕陽が目覚めたのは午後六時ぐらいだった。コーラルが血液を持ってくる。ペットボトルの水に
血液製剤を放り込んだものだ。夕陽も前よりは元気を取り戻したのか、表情が僅かだが明るくなっている。

「吸血衝動は?」

「平気……血を飲んでいれば、何とか抑えられる」

コーラルは吸血鬼に関しては良く解っていないのだが、血を飲んでいて抑えられると言うことは、コーラルなりに
解りやすい解釈で言えば、能力を安定させるための薬を飲んでいたら抑えられると言ったところだろうか。
暁が言うには自制心が働いているらしい。吸血衝動というのは吸血鬼になりたての奴は飲んでも飲んでも
歯止めが利かないそうだ。麻薬中毒が麻薬をほしがる禁断症状のようなものに似ている。

「ところで、どうするか……決めた?」

そっと、コーラルは聞いてみる。何れは決めなければならないことだ。

「……私……こんな風になっちゃって……今までの生活には戻れないってことも解ってるし……」

夕陽が言い始めた。吸血鬼になってしまったから、何気なく過ごしてきた毎日には戻れないぐらい解っている。
吸血衝動は抑えられているものの、両親をいつ襲ってしまうか解らないし、それにこうなってしまった
自分を両親が受け入れてくれるかは解らない。

「……うん」

「でも、ね……こうなっちゃったけど、化け物になっちゃったけど……私は……死にたくなんて、ない……
化け物で居たくないけど……死にたくなんてないから……矛盾してるけどね……でも、そうなの……」

その気持ちがコーラルには分かっていた。かつて、あの場所で見てきた人たちが抱いていた思いと同じだ。
夕陽はベットの上で涙をこぼした。何度泣いたのかは解らない。それぐらい泣いていた。

「生きたいのなら……」

「コーラル」

コーラルが夕陽に言おうとした時に白兎がコーラルの名前を呼んだ。コーラルが顔を上げる。

「……何か……来る?」

夕陽もそれを察知していた。吸血鬼となってしまったので感覚が上がっているのだろう。
隣で本を読んでいた暁もそれに気が付くと、すぐに鞄に荷物を詰め始めた。コーラルも鞄をすぐに纏めた。

「暁様が!」

「奴なら逃げられる」

夕陽が身体を起こした。それが近付いてくるのが解る。コーラルは荷物を片手に、もう片方の手で夕陽の手を掴んだ。

ドアが開いた。
それより少し前に窓硝子がたたき割れる音がした。破片が真下へと落ちていく。
夕陽の手を掴みながらコーラルは早口に何かを呟いた。

「……40%限定解放、承認」

落ちたら骨折どころではすまない高さをコーラルは着地した。夕陽も着地出来ている。
吸血鬼としてのポテンシャルが良かったのだ。

「逃げられたか……!」

コーラルと夕陽の部屋に来たもの……それは聖痕機関が四、ヴァイツ・レミンカイネンだった。


 

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