KOFXXオリジナル小説
一月の蒼い月

06

作者 蓮華


夜がやってこようとしていた。冬の夜は速くやってくる。すでに真っ暗になっていた。ヴァイツは舌打ちすると
自分も飛び降りる。同じように骨を折らないで着地するとコーラルと夕陽の後を追った。
ヴァイツが夕陽の気配を感じたのは、体をしばらく休めていて回復してからで、見回りに行こうとした時に感じた。
強い気配だ。それを確かめに行った時、驚いたのは夕陽はすでに吸血種として覚醒していたことだ。

「なるほど……良い器って言うのも頷ける」

金髪の少女のことも気になったが、それよりも夕陽を殺すことに専念することにした。あのポテンシャルは危険だ。
いずれ、S級の吸血種としてもランキングされるだろう。ただ、吸血鬼としては何も知らないようだ。
気配を消すことだって出来ていない。気配を追っていけば解る。

「……どうしよう。私たちの動きはバレてるし」

「あの……何で大きく……?」

夕陽の手を引っ張っているのは十四才の少女ではなく、外見が二十代の女性だった。長い金髪と言い、紅い瞳と言い
吸血鬼になってしまってからは夕陽の瞳も紅くなっていたが、血のように紅い瞳が夕陽だとしたら
コーラルの瞳はワインの色をしていた。

「ちょっとした事情かな。これが本来の姿なんだけど」

「ところでどこまで逃げる気だい?」

「捕まるだろうし……倒すしかないかも」

「無理は禁物だよ」

ホテルから数キロ離れたところ、建築中の公園へとコーラルと夕陽は来た。丸い山をくりぬいたような遊具の中に
夕陽を入れ白兎を外すと、側に置いた。鞄も放り込み、防寒具を夕陽にかける。

「どうして、助けてくれるの?」

初対面である自分を助けてくれる。化け物であるというのに……コーラルは少し寂しそうに微笑んだ。
それは少女の笑みではなく、女性の笑みだ。

「生きたくても生きられなかった人たちを、知っているから」

コーラルはそれだけを言うと、公園の真ん中へと立った。


精神が破壊されて、苦しみながら死んでいった相手をコーラルはマリンブルーの瞳で見つめていた。
あのプログラムが移植されても、成功するのは少ないから、沢山調べてて慎重に移植しても、
精神破壊を起こす可能性があった。その可能性が出てしまい、また死んだ。

「おねえちゃん……?」

金色の髪の毛をツインテールにした少女がコーラルを呼んだ。本当の姉妹ではないのだが、少女は自分を
おねえちゃんとしたってくれている。あのプログラムの数少ない成功者だ。

「何でもない。それより、本読んであげる」

「うん!」

アイツは自分の孫すらあのプログラムの実験体にした。暁が言うには盲目的になるのだと言う。
目的のためなら何だって犠牲にする奴というのは必ずと言っていいほど居るらしい。

「行こうか。何を読んで欲しい?」

「えっとね…前に百万回生きた猫を読んで貰ったから……」

手を引いた。その手は、暖かかった。
そして今、夕陽の手は少し冷たかったけれど、確かに何処か暖かかったのだ。

「逃げずに待っていたのか」

「そうなるね」

少しして、ヴァイツ・レミンカイネンはやってきた。公園の中で静かに対峙する。

「良い器……奴を渡せ」

「私を倒してからかな……?」

「そうか……」

コーラルは手を構える。瞬間、ヴァイツが消えた。コーラルが、ヴァイツの拳を受け止める。潜在能力を
四十パーセント解放して少し見えた程度だからヴァイツの動きは非常に速い。手が少ししびれた。
左手でコーラルは相手を薙ぎ払う。薙ぎ払った時に出た風がゴミ箱を吹き飛ばした。
ヴァイツの腕を払うと開いている手で肘を叩き込み吹き飛ばす。ヴァイツは時計に叩きつけられた。

「さすが聖痕機関……」

コーラルの服が切れている。特殊な繊維で出来ているのだが、それを切るとはなかなかだ。

「そこまで知っているとは……有名になったものだな」

「悪魔殺しの機関だもの。私はコーラル、冥土のみやげ風に聞くけど貴方は?」

ヴァイツが距離を詰めるとコーラルに打撃を加えた。コーラルは顔をしかめながら、蹴り飛ばす。
解放したと言っても、いつまでもこの姿ではいられない。

「……へぇ、俺はヴァイツ……冥土のみやげね。それはお前にやるよ」

分析するとヴァイツは近距離タイプのようだ。ヴァイツは投げナイフを投げてくる。コーラルはそれを避ける。
かすったベンチに火が付いた。教皇庁や聖痕機関の戦い方は噂にしか聞いたことがないが
法術を利用するらしい。法術とは魔法のようなものだ。

「生憎、構っていられないから」

言うとコーラルはヴァイツの背後に回り込んで、肘を首に叩き込んだ。そして、距離が空いたのを見て
両手で空気を切るようにすると、空気が暴れた。右手で切るように、左手で切るようにすると
また空気が暴れて、ヴァイツの身体が切り刻まれた。

「貴……様……!」

「終わり…かな?」

「まだだ、コーラル!」

白兎の声が公園に響いた。風が止み、ヴァイツの身体は切り刻まれたはずだったのだが、鮮血が地面に零れているだけで
死んではいなかった。アレを食らえば大抵は出血多量で死んでしまう。
コーラルの表情から笑みが消えた。

「致命傷だったのに……?」

「……聖遺物って知ってるか……?」

ヴァイツは笑みを見せていた。聖遺物とは解釈の一つでは「崇拝される聖人の遺したもの」である。聖杯やロンギヌスの槍
などが当たる。これを聞いてコーラルはある結論に達していた。暁が昔していた話を想い出したのだ。
顔に苦笑いのようなものが浮かんでいた。

「聖人が残したもの……」

「聖痕機関はあれで入れ替わりが激しい上に、ひっきりなしに狩るものが出てくる……」

ヴァイツの腕が電灯で照らされた。腕から微かに見えるのは入れ墨のような文様だ。コーラルが風で付けた傷が
消えて言っている。

「……移植したのね……その聖人の遺体の一部を」

聖遺物とは物も入るが中でも一番多いのは……遺体だ。ミイラなどがあたる。聖痕機関で化け物との闘いで
死んだ者、聖人として崇められたもの、その遺体を……聖遺物を移植したのだ。

「前の前の聖痕機関の十二が持っていた聖なる黒い両腕、退魔作用は法術の数十倍。そしてファーブニルの心臓を
食ったせいで、鋼のような身体と強い魔力を手に入れたんだよ」

ファーブニル、北欧神話に出てくるドラゴンだが通称でそう呼ばれているだけだろう。英雄、ジークフリートに
倒されたドラゴン。その血を浴び、心臓を食べたジークフリートは不死身になったと言われている。
こんなのをもし夕陽がくらってしまえば、大ダメージだろう。
コーラルが一瞬の油断をした時、ヴァイツはその隙をついてコーラルに打撃を叩き込んだ。的確に急所を殴られて吹き飛ばされる。

「クッ……」

「コーラル!」

「俺はそれに頼るのが嫌だから格闘技だが……終わりだな……お前を殺してイスルートの残した器を殺す。
魔王の残した器。どんな禍(わざわい)を呼ぶのかは解らないし」

「……殺させはしないわ」

コーラルは立ち上がった。肋骨が折れたようだ。回復が働いてくれて居るみたいだが、追いついていない。それでも立ち上がる。


 

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