KOFXXオリジナル小説
一月の蒼い月

07

作者 蓮華


「器を庇うのか……何故だ……?」

ヴァイツが問う。コーラルは教皇庁のことなどは詳しくない。ヴァイツ側の人間ではないのに。
イスルートの、吸血鬼の怖さを知らないと言うのだろうか。そして彼女は人間だ。
コーラルは唇から流れる血を気にせずに言った。

「良い器とかそう言うことは関係ないのよ」

関係ないと言った風にコーラルは首を振る。

「関係ないだと……?」

「彼女は生きたいと言っていたの。だからよ?生きたくても死んでしまった人を沢山知ってるから」

「だから生かすというのか!?吸血鬼を……化け物を!」

「まだ人間よ。彼女は」

はっきりと言うとコーラルは眼を閉じる。余りやりたくないと言った風だ。これになるのは久しぶりである。
だが、あの回復能力はコーラルよりも上だ。暁が昔作ったあのプログラムよりはないが、それでも半端な攻撃では
すぐに回復される。制限時間が短いがすぐに勝負を付けるつもりだった。

「今度こそ殺してやるよ」

「……80%限定解放……」

「待って!」

冬の公園に彼女……水越夕陽の声がした。出てくると、コーラルとヴァイツの間に立った。
瞳は血の色をしていて吸血鬼となっていた。このスピードで吸血鬼になるのは滅多にいない。

「危ないよ」

置いてきぼりにされた白兎が夕陽に言う。夕陽はヴァイツを睨み付ける。

「私を狙ってきたって言うなら……私が相手になる……」

ヴァイツは虚を突かれていた。良い器と言っていたのはどこにでもいる女子高生だったからだ。
逃げていた時にはよく見えなかったのだが。

「お前が?勝てると想っているのか?俺に」

「知らないわよ。でも、貴方は私を殺しに来たんだもの。私は……まだ死にたくなんて無いんだから……
沢山人を殺しちゃったけれど、それでも、心の何処かで生きたいって想ってる。何時、また人を襲っちゃうのか
解らないけれど……死にたくなんて、ない」

夕陽ははっきりと言っていた。それは後悔や罪の意識やそれでも生きたいという感情を混ぜた力強い眼だ。
化け物になりながらも生きたいと言う、彼女は……人間だった。

「仮に俺を殺して生き延びたとしても、聖痕機関はお前を追うぞ?安息の地なんて何処にもない」

「……でも、死んじゃうよりはマシ。私はやりたいことがまだいっぱいあるんだから!」

ヴァイツはしばらく夕陽を凝視するとやがて笑い出した。下らないと言った風に、嘲り笑うような笑い声を上げた。
あの魔王が残した器。

「―――化け物だよ。確かに。魔王の……奴の残した器って言うのは」

吸血鬼になってもそれでも人間としていきたいと願う。吸血鬼の力に憧れている者も多いというのに。
良い器だよ。魔王……お前の思っていたのとはきっと違う良い、だがな。

「……どうなってるんだい?」

白兎が聞いた。コーラルは傷を回復させながら解らないと言った風に首を振る。

「もしも吸血衝動に支配されて本当に吸血鬼になったらどうするんだ?」

「そんなの……知らないわよ。でも、死ぬなら……人間として…死にたい…死ぬのは嫌だけど」

「……そうなったら、俺が……」

ヴァイツが言おうとした時、何かが飛んできた。コーラルが風で薙ぎ払う。異様なスピードで飛んできたのは
本のページだ。ヴァイツたちが視線を向けると、そこには数十人の僧衣を着た人間が居た。

「聖痕機関!?」

「いや……アレはヨハネ騎士団だ」

ヴァイツの方に銃弾が撃ち込まれたので、ヴァイツは避ける。夕陽に向かって銃が発射されたのでコーラルが庇った。
回りには結界が張られているらしい。コーラルと闘っている間に張られたようだ。

「ヴァイツ・レミンカイネン…そしてイスルートの子…ここで死んで貰おう」

イスルートの子…吸血鬼を親。吸血鬼に血を吸われた人間を子供として見ると、そう言った言い方が出来る。

「何だと?」

「今は聖痕機関は勢力の殆どを失っている。一位も死んだ。聖痕機関を作り直す。唯一の生き残りである
お前を殺し、そしてイスルートの子を殺せば第二位が聖痕機関を支配しやすくなる」

ヨハネ騎士団は退魔師の一団で、聖痕機関は教皇庁の機関の一つだが、勢力図というものがあるらしい。
これは何処の組織でも変わらないようだ。第一位というのは一番偉いというのは何となく解る。
イスルートの闘いで死んだようだ。殆どの人間が死んでしまった聖痕機関、実権を握るのは今のウチだろう。
教皇庁の両刃の刃だからだ。

「二位……奴か。野心家だな……だが、三位が居る。俺はお前等には殺されないさ」

「どうかな……?我々には神が着いている……神は……」

「御託はその辺にしてくれ。寒い」

場違いな声がした。
その時、ヨハネ騎士団の半分以上が何かに身体を切り裂かれて倒れた。まるで木を切り倒すように死んだ。
呆気なく其れをやったのは異様に輝く金色の瞳を持った青年だ。手には肘まで覆う手甲のようなものを着けている。
そこからワイヤーのようなものが出て、切り裂いたようだ。そしてワイヤーは確かに生きているように見えた。

「暁様!」

「探すのに苦労したぞ」

「何を……貴様…何者だ?」

「ただの一般人だ」

無表情で。
軽く手を動かすとワイヤーが動いて、残り半分を容赦なく斬り殺した。ヴァイツや夕陽はそれを見て驚愕していた。
彼は人殺しを楽しんでやったわけではない。かと言って憎んでやったわけでもない。
単純に言えば前の前に置いてある荷物が邪魔だから退けたとか、そんな風だ。
これを形容するならば、よく使う割には定義が難しい『普通』だろう。
普通に反撃の間を与えずに現れて、殺して、その場にいた。
憎しみで人を殺すよりも蹂躙するよりも、何よりもそれは恐い。無関心で、それが少し傾いて邪魔だから殺した。
それだけだった。


 

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