目立たないのが目立つ男
〜縁の下の力持ち〜


第2話


…次の日
今日は土曜日…学校は休み。

「とおおぉぉぉうっ!!!」
一人の男の声が、とある家から、聞こえてくる。
その声はまるで獣のようだった。

「…ふぅー…疲れたぜ…!」
その声の主はペットボトルに入ったスポーツドリンクを飲んだ。
この男は「雷鳴の剣士」市川 智也である。
「室伏 崇」の親友でありライバルの男、室伏軍団最高のスピードを誇る男である。
落雷に当たって、体に電気が溜まったのか、彼は電撃が使える。
ちなみに原理は不明。
彼が水分を取っているのはおそらくトレーニングをしていたからだろう。
彼は1.5gのドリンクを全て飲み干した時、丁度、気配を感じた。

「その足音…木原だな?」

「すごいな…。良くわかったな。」

「小さな足音だったからな。室伏や青島の足音ならもっとバカみたいにでかい足音だよ。…で、今日は何の用だ?修行ならもう付き合えないぞ。体力限界だ。」
市川はそう言うと大きく息を吐いてから、首に掛けたタオルで汗で光っている顔を拭いた。

「違う違う、修行は今日は済ませてきたよ。」

「じゃあ、なんだ?何か他に用でもあるのか?」
市川は前髪を手でかき上げた。
トレーニングにかなり汗をかいたせいか、彼の髪の毛は湿っている。

「実はさ、昨日、室伏に遊びに誘われてさ。」
木原は少し、口をモゴモゴさせながら言った。
もしかしたら、照れくさいのかも知れない。

「…合コンの事か?お前も行くの?」
「ああ。」
市川は返事に驚いた。

「珍しいな…いつもなら、金は貸しても絶対、拒否してるのに…」
「ちょいと…訳ありでね。」
「…8組に好きなヤツでも、いるのか?」
真顔で市川は聞く。

「いや、ああ…まあな。」
木原は、また赤面した。
「ふーん…お前でも恋はするのな。」
市川は縁側に座る。
「…そういうお前だって!恋ぐらいするんだろ?だから、合コンに…」
市川が座ったのを見て、木原もその隣に座った。

「いんや…俺は女子を来させるためのダシだ。恋なんてしてられない。」
「…なんだよぉ…お前なら頼れると思ったのに…」
ガッカリした木原は口をとんがせた。
自分の何に期待をしていたのか謎めいた市川は思いきって聞いてみた。

「…? 俺に何か期待でもしていたのか?」
「ああ、お前なら、女の子をどう落とすか…わかると思ったのに。」
「俺は、自分で言うのもなんだけど、顔で生きてる男だからさ!」
微笑みながら、市川は言う。…腹立つが顔が良いのは本当のようだ。
「(なんか、本当に腹立つな…)」
木原はとりあえず話を聞いてみた。

「なんてーのかな?俺って、いつもクールに無愛想のつもりで生きてるんだけどさ。みんなして、見に来るんだよ。なんでだろうなぁ?」
微笑み続け、彼は言う。
「(わかってて言ってないか?こいつ…いや、わかってて言ってる…)」
木原は憎しみを覚えた。
「あはは…とにかく、俺に女の事はわからねぇよ。」
「そうか…すまない。変な相談しちまったな。」
木原はそう言って立ち上がった。

「いんや、気にするな。俺ら、友達だろ?」
その一言で、さっきの憎しみは消え去った。
「はは…そうだな…。」
「何故か安心したぜ。お前でも恋するって事は…頭の中、格闘技だけじゃなかったんだな。」
「…おまえなぁ、自分も同じようなもんなのに…」
「おっと、そろそろ親父に電話しねぇと…。じゃあな!」
そう言うと市川は家の中に入っていった。

「ああ、またな。」
彼はそう言うと、市川家を去った。

(…格闘でしか生きられないのは、おまえだろ………とは言え一人で悩めないな…不安だが、青島にでも聞くか。まだ、12時だから、多分家にいるだろ…)

そう考えて、木原は自転車に乗って、時速12qぐらいで青島家に向かっていった。


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