波間にて


「しっかし、お前もきまぐれだあな。」
「そう?」

港にふるめかしくも大きな飛行艇が泊まっていた。
骨董品に等しい外見だが、意外としっかりしていそうだった。

「予約宴会サービスなんか、めんどくせえってこの前は言ってたじゃないか。」
「そう?」

雄々しい木製の翼の下で、二人の男女が話しこんでいた。
女性のほうは・・着物なんだかなん何だか良く分からない服を着ている。
爽やかな空色の着物(のようなの)にそめられた千鳥を、黒い無骨な四角形の塊が隠す。
女の手に握られた暗視スコープだ。
男のほうは、錆まみれの飛行艇に寄りかかっている。
白いコック帽にエプロンをつけた絵に描いたような料理人面だ。

「・・・私が楽しめているんだから、いいのよ。」
「・・・・・・・こっちは大忙しだがね。
 いいかっ、お前にはまず計画性って物がないんだ。計画性!
 分かるか?」

「来た。」

話の腰をいともたやすくへし折って、女性のほうがスコープを覗きながら言った。
男は、溜息をつきながらも飛行艇の胴体にあるハンドルを回す。

かちっ、という音とともに胴体横の板がスペースシャトルの屋根のように開く。
そして、照明スイッチを点けると・・・

そこは、定食屋になった。



プロトは、目の前の定食屋に一歩足を踏み出せないでいた。
理由は簡単。

・・・・・・金が無い・・・

既にひまわりたちと共に車外へ出た真紀の背を、細目でジーッと見る。
静かにドアを開け、すすすすっと後ろに近寄って、

「・・・・9月嬢、割り勘でどーですか?」
「ストレートに来ますね。」

すたすたと歩む9月嬢に後ろについて、プロトは嘆願した。

「仕方が無いでしょーが、こちとら金欠真っ最中ですよ。
 おまけにこれから宴会ですよ。え・ん・か・い。
 無礼講とゆー名の下に人にぱんぱし金を使わせるおっそろしー宴会。
 おねがしますよ、ほんっきで・・・」

半泣きで拝む姿に、少々9月嬢も動いてくれたようだ。

「2割持ちましょう。」

「・・・・・いや・・・ああー・・・・4割でわ?」

おおっと、ガルベット押しにはいっちゃった。
さすがに8割持ちはきっついのか。きつすぎるだろうな、うん。
なんにせよここは、戦わなければ生き残れない。(財布の中身が)

「2割。」
「4割でわ?」
「2割。」
「4割。」
「2割。」
「よんわ
「2割。」
「よ・・よん・・
「2割。」
「よ
「2割。」
「・・・・・・・・・・3割でわ?」
「2.5割。ああ、ちなみに私は酒は飲みません。御安心を。」

「わっかりました・・2.5割、よろしくおねがいします・・・」

瞬間、プロトは自分の財布からサラサラと崩れる万札の姿を想像した。
いつのまにか夜明けの中サラサラと消える万札・・・
そんな不吉な想像がこびりついて離れなくなりそうだった。
そして多分、24時間以内にはその想像が現実になる。

「おーい、はやくー、はやくこーい。」
快晴なひまわりの声が港に響き渡った。
そこでよーやくプロトは自分が石みたいに固まっていたことに気付いた。


 


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