波間にて
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| ぺカーッとスポットライトが頭上にかざされた。 栗色の柔らかな髪の隙間から、その明かりから目をそらそうとがんばってみる。 自分の周囲は暗闇だった。 手を伸ばしてみても何もつかめなさそうなほどの深い深い闇。 その闇の向こうから、声が聞こえてくることに、ジョーンはようやく気付いた。 「・・・・ど、どちらさんですかな?」 すずめよりも小さなか細い声を、のどから絞り出す。 「軍歴がありますね。」 予想に反して、高い声が返ってくる。 だが、その声は、大人なのか子供なのかいまいち良く分からない、 中性的な雰囲気を放っていた。 それは、普段隠れていた警戒心がむっくりと立ち上がるような声だった。 「けど、すぐに脱退ですか・・その後は定職にも就かずぶらぶらしてると・・ ふむ、なるほど。」 「暦ってのは、身辺調査の副業もやっていたんでしたかな?」 「いーえ、やってはいませんが・・身体能力に特筆するものなし・・ふむ。」 学校にいた頃となんか似たようなことを言われている・・ と、ここまできてようやくジョーンは、 自分が縄で縛られて椅子に押さえつけられている事に気付いた。 しかもこの椅子やたら自分の体にジャストフィットしていて、出れない。 「ちょっと、腕を上げてみてください。」 「上げられるわけないでしょうが、お宅らでぐるぐるっ巻きに縛ったくせに。」 「いいから、ひょいっと、自然にどうぞ。」 仕方がなしに、腕に力を入れてみた。 強靭な縄は、しっかりと腕と椅子をつないでいる。 「・・・ほら、やっぱり上がるわけがないじゃないですか・・」 「上がらないと思っているからですよ。 今まで『思っていたこと』を無視してやって御覧なさい。」 どうしてもせかす声に、ジョーンは折れた。 どのみち、自分が勧誘をOKした時から記憶が飛んでいるし、 なんかされたのは間違いないんだから。 そう思い腕を上げてみた。 「・・・あれ?」 腕が上がっている。 「・・・・・・あれえ?」 ついでに、御丁寧に縄が巻かれた足を伸ばしてみる。 「・・・・・・・・・・あれれえ?」 伸びた。 縄は、プチプチ音を立てる間もなく、力を入れた瞬間に切れていた。 「・・・・・・・・・・・・・・・あれれれええ??」 ふいに、暗闇の中から、拍手の音が聞こえ、 そこから少女のシルエットがゆっくりと浮かんできた。 歳は十四歳ぐらいだろうか。 なんとなく大人びている、眼鏡をかけた少女。 だが、ジョーンの眼は、その少女ではなく、 足元の大量のしゃべって歩いているひまわり軍団に向けられていた。 「ども、私は暦の9月。長月真紀という者です。 先日から、あなたを3月と共同で改造しておりまして、」 「・・・はあ・・・・」 「とにかく、貴方の体は今やほとんど機械です。 要はサイボーグというヤツです。 失敗確率も高いなか見事に完成しました。おめでとうございます。」 「・・・・・・はあ・・・・・・」 なにがどうめでたいのかいまいち良く分からなかったが、とりあえず、 水飲み鳥のように首をカクンと傾ける。 いや・・ってか・・なんだあれ。 「わーわー」 「きゃーきゃー」 「ア――ァア―――川のなが――れのゆぅおにぃ――」 なんなんだこのひまわり人間は!? 「と、いうわけで、」 ガーッと音を立ててジョーンの前に液晶のパネルがせりあがった。 「これから、いろいろ御説明いたします。」 「・・・は、はあ・・・よろしくおねがいしまさあ。」 「ンガ?」 朝日だ。 まぶしいよ、この上なくすばらしく突き刺さるようにまぶしいよ、おい。 「夢かよ・・・」 それもこれまた古い夢、まだ自分が新米で『プロト』『トルーパー』の、 名前も無かった頃の夢だった。 自分がこの世の波間に入ってきた頃の夢だった。 「お客様。」 「わあっ!」 これまた突拍子も無く上から店員さんの声がした。 調子に乗って、飲みすぎて、完膚なきまでに眠りこけていたようだった。 「お勘定・・おねがいします・・・」 「え゛」 パッとテーブルを見ると、張り紙が貼ってあった。 『真紀様たちは送っていく。とりあえず、車は残していく。あとは頼む。』 ・・・・明らかにあの仮面ライダーの字だった。 「食い逃げは・・許しませんからね?」 氷山のように冷たい女性店員さんの言葉が、プロトの背中にのしかかった。 |
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