Fists of Wings・番外編
真夏のように〜真紀と夏香〜
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−1−『暦』
| 『暦』について、少々話しておこう。 暦とは、フランス系ユダヤ人であるブランキが立てた秘密結社である。 目的は『世界』に革命を起こすためであり、テロを中心に日々活動を行なっている。 一般にその存在は、『エルサレム核攻撃未遂事件』と『アメリカ大統領白昼暗殺事件』の2大テロ事件によって認知されている。 ブランキを中心人物としているが黒幕というわけではなく、1月〜12月という『月』の名前がついた最高幹部全員によって組織は運営することを常としている。 簡単に言えば、まったく違う12の組織によって『暦』が形成されている。 1月〜4月までの最高幹部は初期メンバーが固め、以降は組織が拡大した際に追加されていったものである。 メンバーは、1月は創設者ブランキ、2月はブランキの『生徒』であるアルシャンク、3月は生物工学者博士であるブル、4月は石油王であるイギリズ人のダッシュウッド。 5月〜7月などはそもそも別のテロ組織や犯罪結社であったが、最高幹部『1月』ブランキの思想に共鳴し、参加したものである。 8月はこの5〜7月の意見をもとに、テロ活動でなく、戦闘や暗殺を主眼とした完全武等派機関として発足した。暦が『世界』の軍隊や戦士と戦うことがあるだろう。その時に自ら先陣を切って闘うのが8月である。 そのため少数精鋭ながら、戦闘における他機関への指示の的確さ、個々の戦闘力の高さは暦の中で随一である。 そのトップにたち、『8月』の称号をもつのが、若干16歳の疾風怒濤の『葉月』。 現在の名を麻生夏香という。 暦という組織に目をつけ、自らを天才と信じて疑わない狂った開発欲をもった科学者を向い入れた。 こうして暦のためだけに兵器を開発する機関として生まれたのが9月である。 もちろん、暦のためといっても、兵器を密売したりや国家へ売り込んで取引するなどのことも行なう。 なお、現在は狂った科学者から、長月真紀という少女に引き継がれている。 10月は“無貌の”神無月がトップである情報収拾を目的とした機関である。 神無月は元々、8月の形成時に武術や戦術の育成役として働いていた。 8月や葉月(現・夏香)が組織として正しく運営されると判断するやいな、実戦から退く。 その後、自ら情報収集役として裏方に回り、10月を結成することとなった。 11月は資材や部隊の運営や、証拠隠滅を主とした機関である。 ここのトップは本職が大道芸人という異色の人物ヘルメスが指揮している。 その手腕は世界屈指で大概の自体は『無かったこと』にさえ出来る。 機関のそのものが情報機関の10月の情報網ですらも捕まえられない神出鬼没な面も持ち合わせる。 12月は、7月の意見のもとに『世界から救うべき存在』の1つとして世界中から集められた『特殊能力者』たちである。 単純に特殊能力者だけを集めた機関で、行動や思想など他の機関に依存している。 そのため、幹部としてのグレードは低いものの、個々の戦闘力だけならば8月に匹敵する。 さて、ここで本題である。 暦最高幹部『8月』にして、暦5本の指にはいる戦闘力者『“疾風怒濤”の葉月』が暦から脱走した。 疾風怒濤の葉月は前述の通り、16歳という年齢でありがら闘争専用機関のトップを務めていた。 つまり年端もいかない少女が、暦の全組織含めてもトップクラスの個人戦闘力を持ち合わせている、ということである。 葉月には過去の記憶が無く、気がつけば今の状況にいた。 もっとも『自分に過去の記憶が無い』という事実に、本人は中々気付かなかった。 だが、その真実に辿りつけいたら、頭の脳裏すらかすめることのなかった疑惑が噴火した火山のごとく彼女の身体を突き抜け溢れ出した。 そして葉月は迷うことなく組織を脱走した。 本当の自分を探すために。 暦は、裏切り者に寛容でない。 そこで8月のメンバーを、葉月に刺客を送りつけるのである。 『腐っても鯛』という言葉があるように……むしろ彼女は『新鮮で最高級品の鯛』であるといえる……葉月は8月のトップを務めた人物。 刺客をことごとく退ける。 いや、むしろ暦としても、分かっていた事だ。 最高幹部に、ただの暦メンバーをぶつけては勝てるはずも無い。 倒せない相手に貴重な人材を送り続ける暗愚を当然知っている。 何より犯罪組織にありがちな、裏切り者は組織のメンツを潰したから『メンツ』のために、どんな手段を使っても……どんなに人材を浪費しても……落とし前をつけさせる、といった『メンツ』の無意味さを良く知っている。 しかし……裏切り者がいることは事実であり、その者が何のペナルティもなくのうのうと過ごしていることになれば、他の団員に示しがつかない。 それどころか、脱走しても平気であると思われては士気や、統率・結束の乱れにもなる。 結局のところ、罰として刺客は送り続けることは必須である。 もちろん、本気で葉月を倒すにはそれこそ、暦の幹部クラスの人間が出向かなければならない。 無駄だと分かっていて送る刺客は誰にすべきか。それとも、戦闘技能者の暦最高幹部を刺客として送るべきか。 そんな折である。 何を考えたのか、兵器開発機関である『9月』こと“殺神機人の”長月真紀が立候補してきた。 もちろん……麻生夏香の刺客に、である。 |
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