Fists of Wings・番外編
真夏のように〜真紀と夏香〜

■2■

−2−『超常現象研究会』


「だるぅ〜」

 市立美浜教育学園陰陽寺高等学校。
 8月の疾風怒濤の葉月こと『麻生夏香』はここの転校生として通っている。
 その学校内、物理準備室と手書き表記された紙が貼ってある教室の中で、夏香は頬杖をつくと口から魂のような息を吐き出した。

「てぃ」

 ぽくっ。
 夏香の頭に軽くチョップを叩き込む少女がいた。

「夏香くん。なぁにダレダレしてんのよ」

 短めの髪にカチューシャ、つり目の少女。
 夏香の学友『あやめ』である。

「なんだかね〜。今さっき、時間にして16分34秒前に、夏休みになったのにさぁ。
 なんで『超常現象研究会』の集まりで、居残らなきゃならないのかな、と思って。
 本当だったら、早速夏休みをエンジョイして、アーンナコトやコーンナことを楽しもうと思ったのに」

 超常現象研究会、通称『超研』。部員は3名。なお、あやめはメンバーではない。

「大変ねぇ。ところでアーンナことやコーンナことって何よ」

「いろいろー」

「色々って何よ」

「色々なんだろ。きっと」

 少年の声が割って入ってきた。
 やや小柄な背丈、黒縁の四角いメガネをかけ、何故か頭の上に丸まって寝ている猫がいる。
 名前は『少林寺宅』。超研の部長である。

「あ、じゃあ、アタシはこれで」

 あやめが少林寺の姿を見ると、用無しとばかりに帰り仕度をした。

「それじゃあ、後は若いお二人に任せてごゆっくり


「まてまてまてーい!」

「ほほほほほ、それじゃあね」

 口元を手で隠しながら教室を出て行くあやめを見つめながら、夏香は深く溜息を吐いた。
 その険悪な表情のまま、少林寺に顔を向ける。

「で、今日は何の集まりですか、『部長』?」

 不満満々といった感じの声が少林寺の耳に届く。
 普段、彼女は彼のことを『宅君』、人前では『少林寺君』と呼ぶのだが、明らかに不平があるときは『部長』と呼んでいる。
 少林寺は、頭の上の猫をまったく微動だにさせることなく、夏香の二つ隣の椅子に座った。

「大学祭のことについて」

「大学祭?」

「そう、大学祭」

 少林寺は、頭の上の猫を無造作に……しかし、猫の眠りを妨げることなく……膝の上にもってくる。

「万年部費ゼロの超常現象研究会としては、今年こそ大学祭の研究発表で成果をあげ、部費を得たいところだ」

「うーみゅ、確かに部費が無いのは寂しいねぇ……でもウチなんか部費なんて無くても特に問題無いでしょう?」

「冬休みに、研究と称して部費で温泉旅館に泊まることが出来る」

「部費は絶対欲しいところね!」

 夏香は拳を強く握りしめ、激しく同意した。

(それに幽霊が出る部屋は安いし)

 と少林寺は口に出すことなく呟いた。

「それと、もう一つ、部として重要なことがある」


 


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