Fists of Wings・番外編
真夏のように〜真紀と夏香〜

■3■

―3―自己紹介


「……どっちにしろ、二人は知り合いだということだ」

 それまで黙ってことの成り行きを見ていた少林寺が答える。
 膝の上のネコを隣のイスに移すと、立ち上がる。

「では改めて自己紹介し合おう。
 俺の名前は少林寺宅。超常現象研究会の部長を務めている」

 少林寺の言葉を聞きながら、彼の近くに寄った。
 こうしてみると、真紀の背が『飛び抜けて低い』ことが分かる。
 少林寺の視線が夏香に向かう。
 不承不承といったふうに夏香も自己紹介を始める。

「麻生夏香よ。『よろしく』」

 夏香の言葉は簡潔だった。

「他にも、猫柳伸二という部員がいる。だが彼は丁度留守にしている。
 以上が、超研のメンバーだ」

 少林寺の解説に、真紀もふ……と薄い笑みを浮かべる。

「では、私からも自己紹介をしましょう。
 私は真紀。長月真紀です。研究の関係上、ほとんど幽霊部員になるかと思いますが、宜しくお願いします」

「そして」

 ここに来て今まで無言を通していた、真紀の隣にいる執事風の黒肌美形男性が答える。見た目よりハスキーボイスだ。

「ワタクシは真紀様の執事兼ボディーガードをしています中尾邦彦と申します。
 麻生夏香様、少林寺宅様、こうして言葉を交わすのは初めてですが、今後とも良き隣人、良きサークル仲間として、お付き合いのほどをお願いします」

 言いながら中尾邦彦は、優雅に一礼した。

「中尾邦彦……て、それじゃあ、アンタ、日本人だったの!?」

 夏香が素っ頓狂な声を上げる。
 そいういえば、この男性とは、顔をあわせることは多々あっても、会話することはほどんと無かったことに気づく。

「ワタクシめの血の中には、日本人の血は一滴も流れておりません。
 しかしながら、日本の名前を持ち、日本国籍をもつことを日本人とするならば、ワタクシは日本人でございましょう」

 あくまで優雅に中尾が答える。

「早速だが、今日の議題だ」

 少林寺が口を開いた。

「夏休みがあけると、陰陽寺高校ではすぐに文化祭となる。
 各種サークルは各教室で研究結果を発表するのは通年の通り。
 我が部としても、今年こそは一般人に分かる研究結果を用意し、部費を獲得したいところだ。

 そこで、今年の研究内容について話そう。
 最近、急に噂になりだしたことだが
 陰陽寺高校やその周辺の街で透明な巨人を見つけた、という噂が立っている」

 中尾がピクリと動いたが、少林寺はそのことに気にしたふうはなく言葉を続ける。

「前々からでなく、ここ最近たち始めた噂ということは、何か知らの原因があるはずだと推測する。
 そこで、今年の研究内容は……」

 夏香が無言で、少林寺を見つめている。

「この透明な巨人に関する情報を集めること。これだ」

 心なしか真紀が苦笑したように見える。

「夏休み中盤を過ぎた頃、もう一度、超常現象研究会で会合を開く。
 そのときに、まったく手がかりが得られてないようだったら、研究内容を変える予定だ。
 質問は何かあるか?」

 少林寺の問に、真紀が挙手する。

「もし、それが超常現象などではなく、子供もイタズラだったり、他の要因であった場合は?」

「その時は、研究テーマを変えるさ。
 もっとも、例え子供のいたずらだったにせよ、それもまた発表内容のストックが出来るから悪いことじゃない」

 では……と、少林寺がメガネの位置を直す。

「本日は、これにて解散。
 夏休み中の会合は、日を追って連絡する。よき夏休みを」

「夏休みをー!」

 元気よく答え、ふぅ、と背伸びをする夏香に、真紀が、近寄った。
 耳に唇を寄せ、たった一言、空気を立てるように呟く。

「今夜、本気で参ります」


 


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